Dec 6, 2016

Arbelos and Salinon

図のような大きなsemicircle(半円)と,その直径上に中心を持つ2つの半円で囲まれた部分をarbelos(アルベロス=αρβηλος)といいます.古代ギリシアの「靴屋のナイフ(arbelos)」に似ているのでこのように呼ばれています.

Arbelosの面積は,中の2つの半円の半径をa, bとすると,$$\frac{\pi(a+b)^2}{2}-\frac{\pi a^2}{2}-\frac{\pi b^2}{2}=\pi ab$$となりますが,これは,中の2つの半円の共通接線と大きい半円との交点を結ぶ線分CDを直径とする円の面積に等しくなっています.(Archimedes' Book of Lemmas Proposition 4 アルキメデスの補助定理集命題4)

Arbelosはギリシャ時代にBook of Lemmasに登場してから現在までいろいろな研究がされ,江戸時代の和算でも多く登場しています.中の2つの半円の半径の比がa:b=1:1のときのArbelosは,漫画「和算に恋した少女」第2巻にも登場しました.

似たような形で,図のような大きな半円と,その直径上に中心を持つ3つの半円(両端の半円は同半径)で囲まれた部分をsalinon(サリノン=σαλινον)といい,ギリシャ語で「塩入れ(salt-celler)」を意味します.

Salinonの面積は,中の両端の半円の半径をa, 中央の半円の半径をbとすると,$$\frac{\pi(2a+b)^2}{2}-\pi a^2+\frac{\pi b^2}{2}=\pi(a+b)^2$$となりますが,これは図の最上点と最下点を結んだ線分を直径とする円の面積に等しくなります.(Archimedes' Book of Lemmas Proposition 14)

Arbelosの形をした大きな彫刻がNederland(オランダ)にあります.Kaatsheuvel(カーツスフーフェル)という村の中央を走る高速道路Midden-Brabantweg(ミッデン=ブラバント通り)沿いにあり,高さは24mもあります.Googleのstreet viewで探したところ,51°39'37.4"N 5°03'26.1"Eという位置にありました.2016年6月の撮影でしたが,正面から全体を見ると,目の前の街灯が邪魔をしていて少し残念でした.探してみてください.
(左:街灯設置前,右:街灯設置後)

<Reference>
アルベロス 3つの半円がつくる幾何宇宙
岩波科学ライブラリー 2010年 奥村博/渡邉雅之

Book of Lemmas

★SalinonをGeoGebraで作ってみました.aの値を変えてみてください.
https://www.geogebra.org/m/qtVmj2p5

Nov 13, 2016

Intercept Theorem

さえぎる、横取りする、傍受する、迎撃する,球技で相手のパスを奪うなど,いろいろな意味を持つinterceptですが、数学でよく使われるのは,グラフでいう切片です.普通,interceptはy-intercept(y切片),すなわちy軸との交点のy座標のことをいい,x-intercept(x切片)はx軸との交点のx座標のことをいいます.

一方,切片はもともと切れ端という意味もあるので,secant(割線)やtransversal(横断線)によって切り取られるsegment(線分)もこう呼ばれます.

figure 1
Intercept theoremは,2本の交わる直線と複数の平行な直線が交わってできるsegment(平行な直線によって切り取られる線分)の比が等しいという定理で,図1の場合なら
a:b=c:d
が成り立つという定理です.日本の中学数学3の教科書では,「平行線と線分の比の定理」と呼ばれています.英語でThales' Theoremと呼ばれる場合もありますが,同名の異なる定理が他にもあるのであまりこう呼ばない方がいいかも知れません.

figure 2
[証明]2つの三角形は容易に相似と分かりますから,図1右の場合,相似比より,
a:b=c:d
図1左の場合,相似比より,
a:(a+b)=c:(c+d)
⇔a(c+d)=c(a+b)
⇔ac+ad=ac+bc
⇔ad=bc
⇔a:b=c:d

図1の突き抜けた部分を削除した図2の場合は,triangle intercept theoremといい,日本の中学数学3の教科書の相似のところで登場する「三角形と比の定理」がこれに当たります.

figure 3
この定理を利用して証明できるもので,angle bisector theorem(角の二等分線定理)があります.図3のように,△ABCで∠Aの二等分線と直線BCとの交点をDとするとき、AB:AC=BD:DCが成り立つという定理です.証明方法はいくつかありますが,BAの延長線上にAD//ECとなる点Eをとる方法がよく知られています.

日本の中学数学3の教科書ではtriangle intercept theoremの後に,midsegment theorem 別名 midpoint (connector) theorem (中点連結定理=中国語では「中點定理」)が登場します.

<中点連結定理> midsegment theorem / midpoint (connector) theorem
△ABCの2辺AB,ACのそれぞれの中点を結んだ線分は,残りの辺BCと平行かつ長さはその半分となる.

<中点連結定理の逆>
△ABCの2辺AB,AC上に端点を持つ線分が,残りの辺BCと平行かつ長さがその半分となるとき,線分の端点は各辺の中点になる.

次の場合も「中点連結定理の逆」と呼ばれる場合があります.
△ABCの辺ABの中点Mを通り辺BCに平行な直線と、残りの辺ACとの交点Nは、辺ACを二等分する.(triangle intercept theorem 中国語では「截線(せっせん)定理」)

<Reference>
Intercept theorem - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Intercept_theorem
中点連結定理 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E7%82%B9%E9%80%A3%E7%B5%90%E5%AE%9A%E7%90%86

Oct 6, 2016

Method of Differences

異なることを同じ用語で呼ぶ場合があります.この method of differences という用語は数列において2つの場合に使われます.

そのひとつは,telescoping series(望遠鏡級数または畳み込み級数)、すなわち,中の符号の異なる項が次々に消えていき,最初と最後の和で全体の和が求まるような級数,例えば$$\sum_{k=1}^n \frac{1}{k(k+1)}=\sum_{k=1}^n\left(\frac{1}{k}-\frac{1}{k+1}\right)$$のような級数ですが,このようなtelescoping sum(望遠鏡和または畳み込み和)を用いる方法をmethod of differences といいます.このtelescopingは,いくつか半径の異なる鏡筒でできた望遠鏡を畳み込むと最初から最後までの鏡筒がひとつにまとまることから来ています.

一方,difference sequence(階差数列)を考えて一般項を求める方法も method of differencesと呼ばれています.(a)初項に階差数列のn-1項の和を加える方法の他に,(b)二項定理に似た方法,(c)連立方程式を用いる方法があります.

(a)初項に階差数列のn-1項の和を加える方法
元の数列{an}の第1階差数列を{bk}とするとき,an=a1+Σbk(ただしΣはn-1までの和)で求めます.第2階差{cn},第3階差{dn}まで考えるときも,{dn}から{cn}を求め,{cn}から{bn}を求め,{bn}から{an}を求めます.

<例1> (第2階差数列が定数列になるとき、もとの数列を2階等差数列といいます)
{an} 5, 10, 17, 26, 37, …
{bn}   5,  7,  9,  11, …
{cn}     2,  2,  2, ….
an=5+Σ(2k+3)(ただしΣはn-1までの和)
   =n^2+2n+2

<例2> (3階等差数列)
{an} 2, 12, 36, 80, 150, 252, …
{bn}   10, 24, 44, 70, 102, …
{cn}     14,  20, 26, 32, …
{dn}        6,   6,  6, …
bn=10+Σ(6k+8)
   =3n^2+5n+2
an=2+Σ(3k^2+5k+2)
   =n^3+n^2

(b)二項定理に似た方法
a1=a1(係数が1)
a2=a1+b1(係数が1,1)
a3=a2+b2
   =a1+b1+b1+c1
   =a1+2b1+c1(係数が1,2,1)
a4=a3+b3
   =a1+2b1+c1+b1+2c1+d1
   =a1+3b1+3c1+d1(係数が1,3,3,1)
...
an=a1+n-1C1・b1+n-1C2・c1+n-1C3・d1+...(+0になるまで)

<上と同じ例1> (2階等差数列)
{an} 5, 10, 17, 26, 37, …
{bn}   5,  7,  9,  11, …
{cn}     2,  2,  2, …
an=5+(n-1)・5+{(n-1)(n-2)/2}・2 (cnの次から0なのでc1で終わり)
   =n^2+2n+2

<上と同じ例2> (3階等差数列)
{an} 2, 12, 36, 80, 150, 252, …
{bn}   10, 24, 44, 70, 102, …
{cn}     14,  20, 26, 32, …
{dn}        6,   6,  6, …
an=2+(n-1)・10+{(n-1)(n-2)/2}・14+{(n-1)(n-2)(n-3)/3!}・6 (dnの次から0なのでd1で終わり)
   =n^3+n^2

<例3 [Explicit Formula 問題]に出てきたMoser's Circle Problem> (4階等差数列)
{an} 1, 2, 4, 8, 16, 31, …
{bn}   1, 2, 4, 8, 15, …
{cn}     1, 2, 4, 7, …
{dn}       1, 2, 3, …
{en}         1, 1, …
an=1+(n-1)・1+(n-1)(n-2)/2・1+(n-1)(n-2)(n-3)/3!・1+(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)/4!・1 (enの次から0なのでe1で終わり)
   =1/24(n^4−6n^3+23n^2−18n+24)

(c)連立方程式を用いる方法
第m階差数列が定数列になるとき、もとの数列をm階等差数列といいますが,m階等差数列なら一般項がm次式になることが分かっているので,anをnのm次式とおいて,係数を連立方程式を解いて求めます.

<上と同じ例1> (2階等差数列 m=2の場合)
{an} 5, 10, 17, 26, 37, …
{bn}   5,  7,  9,  11, …
{cn}     2,  2,  2, …
an=an^2+bn+cとおいて,
a1= a+ b+ c= 5
a2=4a+2b+c=10
a3=9a+3b+c=17
を解くと,a=1, b=2, c=2を得るので,
an=n^2+2n+2

<上と同じ例2> (3階等差数列 m=3の場合)
{an} 212, 36, 80, 150, 252, …
{bn}   10, 24, 44, 70, 102, …
{cn}     14,  20, 26, 32, …
{dn}        6,   6,  6, …
an=an^3+bn^2+cn+dとおいて,
a1= a+ b+ c+ d= 2
a2=8a+4b+2c+d=12
a3=27a+9b+3c+d=36
a4=64a+16b+4c+d=80 
を解くと,a=1, b=1, c=0, d=0を得るので, 
an=n^3+n^2 
 

図はこの連立方程式を解いたTI84というGDC(グラフ電卓)の画面です.このrrefは与えられた行列[A]を左基本変形した行列(reduced row-echelon form)を示しています.

<Reference>
望遠鏡和
http://integers.hatenablog.com/entry/2015/11/27/200158

Mathematics Higher Level (Core) 3rd Edition (IBID Press)

Finding the Next Number in a Sequence: Common-Difference Examples
http://www.purplemath.com/modules/nextnumb2.htm

Sep 25, 2016

Rise Over Run

英語で分数$$\frac{a}{b}$$は"a over b"とか,"a divided by b"と読みます.このrise over runは,分数$$\frac{rise}{run}$$のことで,直訳すれば「登り/走り」となりますが,意味はグラフでいうと,"vertical change / horizontal change"(垂直方向の変化/水平方向の変化),または「y軸方向の変化量/x軸方向の変化量」,または「yの増加量/xの増加量」.さらに言い換えると,正比例のconstant of proportionality(比例定数),一次関数のslope or gradient(傾き),関数のrate of change(変化の割合)またはaverage rate of change(平均変化率),グラフのsecant line(割線)の傾き,運動ではaverage velocity(平均の速度)を意味します.

動画サイトで関連のものを探したら,Slope = Rise over Run. "You have to RISE before you RUN"というのがありました.やはり,英語で分数は上から読むからでしょう.

因みに,接線はtangent line,微分係数(瞬間変化率)はinstantaneous rate of changeといいます.

Sep 20, 2016

Explicit Formula

数列のgeneral term(一般項)はn-th term(第n項)ともいいますが,nに数値を代入したら直接n番目の項が求められる,つまり求め方がはっきりと示されているので,explicit formula(明示的公式)と呼ばれる場合があります.これに対し,recurrence relation(漸化式)のことをrecursive formula(再帰的公式)という場合があります.

明示公式と呼ばれるものはいくつかあるのですが,明示公式といえば数学では「リーマンの明示公式」=「Riemann's prime number formula(素数公式)」が有名です.これは$x$以下の素数の個数を表す関数$\pi(x)$のことなのですが,全く別の難しい式になります.

日本の高校数学の教科書で,数列の項はa1, a2, a3,…でを表す場合が多いのですが,英書ではu1, u2, u3,…がよく使われ,GDC(グラフ電卓)でもSEQモード(数列モード)にするとuが使われています.これはある用語の頭文字ではないかなと思って調べてみたら,こんな文章が見つかりました.
If a sequence is composed of elements or terms it belonging to some set S, then it is conventional to indicate their order by adding a numerical suffix to each term. Consecutive terms in the sequence are usually numbered sequentially, starting from unity, so that the first few terms of a sequence involving u would be denoted by u1, u2, u3,... . Rather than write out a number of terms in this manner this sequence is often represented by {un}, where un is the nth term, or general term, of the sequence.
Mathematics for Engineers and Scientists, Sixth Edition (Alan Jeffrey) 
というわけで,1を意味するunityから来ているようです.調べる前はunitではないかと思ったのですが,当たらずとも遠からずでした.

等差数列は直訳のsequence of numbers with common differenceよりもarithmetic progressions(略してAPs)またはarithmetic sequence(直訳は算術数列)という言い方が多いです.これは等差数列a, b, cの等差中項$b=\frac{a+c}{2}$はarithmetic means(算術平均または相加平均)でもあるからです.同様に等比数列もgeometric progressions(略してGPs)またはgeometric sequence(直訳は幾何数列)といいます.これは等比数列a, b, cの等比中項$b=\sqrt{ac}$はgeometric means(幾何平均または相乗平均)でもあるからです.

[Explicit Formula 問題]
Moser
n points are placed around a circle so that when line segments are drawn between every pair of the points, no three line segments intersect at the same point inside the circle. We consider the number of regions formed within the circle.
a) Draw the cases n = 4 and n = 5.
b) Use the cases n = 1, 2, 3, 4, 5 to form a conjecture about the number of regions formed in the general case.
c) Draw the case n = 6. Do you still believe your conjecture?
(正解はこちら

<Reference>
Mathematics for Engineers and Scientists, Sixth Edition (Alan Jeffrey)

Mathematics HL (Core) for use with IB Diploma Programme third edition (Haese Mathematics)

Aug 29, 2016

Quadratic Formula

二次方程式はquadratic equation,二次関数はquadratic function,二次式はquadratic expressionといいますが,なぜ二次はsecond degreeではないのでしょうか.Wolfram Math World には,このように書かれてありました.
The Latin prefix quadri- is used to indicate the number 4, for example, quadrilateral, quadrant, etc. However, it also very commonly used to denote objects involving the number 2. This is the case because quadratum is the Latin word for square, and since the area of a square of side length x is given by x^2, a polynomial equation having exponent two is known as a quadratic ("square-like") equation. 
ラテン語の接頭辞quadriは4という数字を示しているが,2という数字を含むものも表していた.Quadratumはラテン語の正方形という意味であり,その1辺をxとすると面積はxの2乗になることから,2乗を含む方程式はquadraticな(正方形的な)方程式として知られていた.という理由のようです.

というわけで,quadratic formulaは二次方程式の解の公式のことです.Quadratic Formula Song(解の公式の歌)が動画サイトで多数見つかります.親しみやすそうなものを2つ選んでみました.
♪Pop! Goes the Weasel 
<Math Version>
x equals negative b
plus or minus the square root
of b squared minus 4ac
all over 2a 
<Actual Song>
All around the mulberry bush,
The monkey chased the weasel.
The monkey thought 'twas all in fun.
Pop! goes the weasel.
桑の木の周りで
サルがイタチを追っかけた
サルはとても楽しんだ
イタチがぴょんと跳ねた
all over 2aはこの前がすべて分子で2aが分母という意味です.また,'twasは"it was"の省略形です.
♪Row Row Row Your Boat 
<Math Version>
x equals opposite b
plus or minus the square root
of b squared minus 4ac
divided by 2a 
<Actual Song>
Row, row, row your boat
Gently Down the stream.
Merrily, merrily, merrily, merrily,
Life is but a dream.
ボートを漕ごう
そっと流れに乗って
陽気に楽しく
人生はただの夢
なぜnegative bではなく,opposite bなのかという説明が動画の中にありました.bがnegative number(負の数のときは)符号が変わってpositive number(正の数)になるからだそうです.

因みに,Quadratic Formulaは別名,Midnight Formulaといいます.

<Reference>
Wolfram Math World : Quadratic

世界の民謡・童謡
http://www.worldfolksong.com/

Aug 22, 2016

Long Division

Quotient-remainder theorem(商と余りの関係 or 割り算の原理)より,整数や整式はA÷Bに対して商Qと余りRが必ずあり,
A=BQ+R  (0≤R<B)
となることから,この割り算で商と余りを求めることを,Euclidean division(ユークリッド除法)またはentire division(整除法)といい,そのための筆算をlong division(長除法)といいます.Longに対してshort division(短除法)は,下に計算を書かない方法です.式の割り算や平方根の開平のための筆算もlong divisionといいます.発音の似た言葉で,Long Vacationは私の好きな大瀧詠一のアルバム,Long Versionは私の好きな稲垣潤一の歌です(笑).

expanded synthetic division
2次式以上の整式を1次式で割るのに筆算より速い方法として,synthetic division(組立除法)が知られていますが,これを拡張して,2次式や3次式で割る方法をexpanded synthetic divisionといいます.例えば3次式x^3-12x^2-42を2次式x^2+x-3で割る場合,図のように計算し,商はx-13,余りは16x-81を得ます.やり方はguessしてみてください.

Lattice Method
因みに,2数の最大公約数を求める方法として,Euclidean algorithm(ユークリッドの互除法)があります.同様に乗法の筆算をLong Multiplicationといいます.他にも手計算で乗法を行う方法にLattice Methodがあります.例えば,948×827は図のような格子状の図を描いて783996を計算します.やり方はguessしてみてください.

<Reference>
Synthetic division
https://en.wikipedia.org/wiki/Synthetic_division

Lattice Method
http://mathworld.wolfram.com/LatticeMethod.html

Aug 16, 2016

Null Factor Law (NFL)

「ab=0ならばa=0またはb=0である」という性質を,Null Factor Law (NFL)といいます.日本語訳は特にありません.ただnull factor(零因子)という用語はあって,nil factorまたはzero divisorともいいます.例えば行列ではNFLは成り立たず,「AB=0を満たす0でない行列A,B」があり,これらを零因子といいます.整数,実数,複素数などではab=0になるのはa=0またはb=0のときしかなく,これを零因子と呼ぶか呼ばないかというのは,代数学の環論という分野でのお話になります.NFLはzero-product propertyといういい方もよく使われます.

日本では中3で初めてquadratic equation(二次方程式)が登場しますが,解法は大きく分けて2つあります.
(M1) Factorising and using the Null Factor Law(因数分解してNFLを利用)
(M2) Quadratic formula(二次方程式の解の公式,別名midnight formula

(M1)の手順は次の1-3です.

1. If necessary, rearrange to get 0 on the right hand side.(必要なら右辺を0にする)

2. Factorise(次の(1)-(5)のいずれかで因数分解する)
(1) By taking out a common factor(共通因数をくくり出す)  
$x^2−4x=0$
$x(x−4)=0$
(2) By using the difference of two squares rule(平方の差の公式) 
$4x^2−9=0$
$(2x+3)(2x-3)=0$ 
(3) By using the shortcut if a=1($x^2$の係数が1の場合に手短かに解く方法)
$x^2+3x−10=0$
$(x+5)(x–2)=0$
(4) By using the full method if a<>1($x^2$の係数が1でない場合に手短かでなく一般的に解く方法Crisscross Methodの2.1参照)
$3x^2−10x−8=0$
$3x^2−12x+2x−8=0$
$3x(x−4)+2(x−4)=0$
$(x−4)(3x+2)=0$
(5) By completing the square(平方完成)
$x^2+6x+4=0$
$x^2+6x+9+4−9=0$
$(x+3)^2−5=0$
$(x+3)^2−(\sqrt{5})^2=0$
$(x+3+\sqrt{5})(x+3−\sqrt{5})=0$
3. use the Null Factor Law(NFLを使う)
上の(1)の続き ((2)~(5)は省略)
$x(x−4)=0$
$x=0$または$x-4=0$ (NFL)
$x=0$または$x=4$
一般にNFLといえばNational Football League(アメリカのプロアメリカンフットボールリーグ)の方がずっと有名ですね.

<Reference>
Quadratic Equations
https://bhs-methods10.wikispaces.com/08-quadratic-eqns


Aug 15, 2016

Sum and Product of Roots


直訳すれば「根の和と積」という意味ですが,高校数学で登場する「二次方程式の解と係数の関係」のことです.これをn次方程式に一般化したものはVieta's formulas(ヴィエタの公式)といいますが,二次方程式の場合だけでもVieta's formulasと呼ぶ場合があります.

二次方程式の解と係数の関係は,2解を$\alpha$,$\beta$とすれば,$$ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)=a(x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta)$$の係数を比較して,$$\alpha+\beta=-\frac{b}{a}, \quad \alpha\beta=\frac{c}{a}$$となりますが,これがn次式方程式になると,n個の解を$r_i$で表せば,$$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0 = a_n(x-r_1)(x-r_2)\cdots(x-r_n)$$右辺を展開して,
$$a_nx^n - a_n(r_1+r_2+\!\cdots\!+r_n)x^{n-1} + a_n(r_1r_2 + r_1r_3+\! \cdots\!+ r_{n-1}r_n)x^{n-2}$$$$+\! \cdots\! + (-1)^na_n r_1r_2\cdots r_n$$
左辺と係数比較して,$$r_1+r_2+\cdots+r_n=-\frac{a_{n-1}}{a_n}$$$$r_1r_2+r_1r_3+\cdots+r_{n-1}r_n=\frac{a_{n-2}}{a_n}$$$$\vdots$$$$r_1r_2\cdots r_n= (-1)^n \frac{a_0}{a_n}$$となります.

似たような名前で,Viète's formula(ヴィエトの公式)というのがあります.これはπ(PI=円周率)を無限積表示する次の公式です.$$\pi=2\prod^{\infty}_{n=1}\frac{2}{a_n}$$(ただし,$a_n$は次の漸化式を満たす数列 $a_{n+1}=\sqrt{2+a_n}$, $a_1 =\sqrt{2}$)

実はVietaとVièteは,フランスの数学者François Viète(1540–1603)のラテン語表記と仏語表記です.非常に珍しい例ですが,同一人物の名前がついているのに異なる公式になっています.同一人物なんだから同じ名前の表現を使いたいというときは,Vieta's root formulasとVieta's formula for PI,またはViète's lawsとViète's formulaと呼ぶ場合があります.

<Reference>
Vieta's formulas - Art of Problem Solving
https://www.artofproblemsolving.com/wiki/index.php?title=Vieta%27s_Formulas

Jul 19, 2016

Donkey Theorem

このdonkeyという言葉は,ロバという意味の他に「バカ」という意味もあり,ロバの別名であるassは俗語で「尻」という意味もあります.三角形の合同条件のひとつとして,「2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい(SAS=Side-Angle-Side)」が知られていますが,「2組の辺とその間にない角がそれぞれ等しい(ASSまたはSSA)」という条件は,図のようにambiguous case(一意に定まらない場合)になります.これが合同条件として成り立たないということと,donkeyとassの意味とを掛けて,donkey theoremと呼んでいます.これはバカにして呼んでいるので,正しく成り立つ定理の名称ではありません.
    
  
  

三角形の辺と角の関係を細かく分類してみましょう.すべて最後に「がそれぞれ等しい」を省略しています.

①SSS=SSS 「3組の辺」 congruent(合同)
「直角三角形の斜辺と他の1辺」は三平方の定理を既知とすればもう1辺はすぐに求められるのでここに含まれます.

②SAS=SAS 「2組の辺とその間の角」 congruent
ドイツの数学者ヒルベルトDavid Hilbert (1862–1943) は著書「幾何学基礎論」の中で,これを三角形の合同公理としています.

③ASS=ASS 「2組の辺とその間にない対応する角」 ambiguous case
上図左の場合です.角辺辺の順で等しい三角形が2つできます.

④ASS=SSA 「2組の辺とその間にない対応しない角」 ambiguous case
上図右の場合です.角辺辺と辺辺角が等しい三角形が2つできます.

⑤ASA=ASA 「2組の角とその間の辺」または「1組の辺とその両端の角」 congruent
内角の和は180ºなので自動的に3組の角が等しくなり,2つの角の間の辺は対応する辺なので,三角形は1つに決まります.

⑥AAS=AAS 「2組の角とその間にない対応する辺」 congruent
自動的に3組の角が等しくなり,対応する辺が等しいので,三角形は1つに決まります.「直角三角形の斜辺とひとつの鋭角」といいう条件はここに含まれます.「直角三角形の斜辺と他の1辺」も三平方の定理を既知としない場合は,一方を裏返して「他の1辺」を重ねて二等辺三角形を作り,その底角が等しくなることから,「直角三角形の斜辺とひとつの鋭角」という条件になるので,ここに含まれます.

⑦AAS=SAA 2組の角(自動的に3組)とその間にない対応しない辺 similar(相似)

⑧AAA=AAA 3組の角(2組の角で十分) similar

因みに米国では,ロバはDemocrats(民主党)のシンボルになっていて「家庭」を象徴しているのに対し,Republican(共和党)のシンボルはelephant(ゾウ)で「知識と力」の象徴だそうです.

Jul 13, 2016

Sig Figs

これはsignificant figuresの省略形で,s.f.とも表します.Significant(重要な,意味のある,著しい)とfigure(図,形,姿,人物,数字)を合わせて訳すなら,「意味のある図」または「意味のある数字」かなと思いますが,これは後者の意味を持つ「有効数字」のことをいいます.

例えば123456という値を,3 significant figures(有効数字3桁)で近似するという場合,上から3桁を有意な数として,4桁目を四捨五入し,decimal notation(10進表記)では123000,またはscientific notation(科学表記)なら$1.23\times 10^5$と表します.

Sig figs rules
①0でない数字はすべて有効数字である
例 123.45の有効数字は1, 2, 3, 4, 5の5桁
②0でない数字の間の0は有効数字である 
例 101.1203の有効数字は1, 0, 1, 1, 2, 0, 3の7桁
③0でない数字の前が全ての0の場合,前にある0は有効数字ではない
例 0.00052の有効数字は5, 2の2桁
④小数点以下の0は有効数字である
例 12.2300の有効数字は1, 2, 2, 3, 0, 0の6桁
⑤小数点なしの数の0でない数字の後の0は有効数字である場合とない場合がある
例 2000の有効数字は次の4つの場合が有り得る
  a) 2100を四捨五入して2000を得た場合の有効数字は2だけの1桁
  b) 2020を四捨五入して2000を得た場合の有効数字は2, 0の2桁
  c) 2003を四捨五入して2000を得た場合の有効数字は2, 0, 0の3桁
  d) 2000.4を四捨五入して2000を得た場合の有効数字は2, 0, 0, 0の4桁

このfigureという用語を「図」という意味で用いる場合,"The statistics are shown in figure 3"なら,「その統計は図3に示されている」という意味になります.またsignificantという用語はなしで,単にdouble figuresなら2桁(の数)という意味になります.またfigureは計算という意味もあり,"do figures"は「計算する」という意味にもなります.

因みに,人形のこともfigureといいますが,これは人物の形をしたものという意味から来ています.また,figure skatingのfigureは図形という意味で,元々氷上に図形を描くという競技でしたが,その語源となった種目のcompulsory figures(規定)は1990年に廃止され,今はshort programとfree skatingだけになっています.

【Sig Figs 問題】
Find, correct to 3 significant figures, the volume of the solid of revolution formed when these functions are rotated through 360º about the x-axis:
a) y=x^3/(x^2+1) for 1≤x≤3
b) y=e^(sinx) for 0≤x≤2

(正解はこちら

Jul 9, 2016

Bearing

Vectors(ベクトル)の応用問題の中には,直進する物体の進行方向を求めるものがあり,その解答は,bearing ≈ 300ºとか,bearing  ≈ 60º west of north などとなっています.前者はtrue bearing(真方位)といい,真北線からclockwise direction(時計回り)に何度というように表します.また後者はconventional bearing(よく使われる方位)で,南北線から東または西へ何度というように表します.

Cardinal Points(基本方位)は,north, south, east, and westの4方位で,NSEW(北南東西)の順でいいます.日本では普通,東西南北の順でいいますが.麻雀では東南西北という順ですね.さらにそれら4つの方位の間に,half-cardinal pointsまたはquadrantal pointsまたはintercardinal pointsまたはintermediate (or ordinal) directionsと呼ばれるnorth east(北東), south east(南東), south west(南西) and north west(北西)があります.

例えば右図でPの方位は,true bearingでは140º,conventional bearingでは40º east of southとなり,これはS40ºEとも表します.日本語で「南東40ºの方向」ということになります.飛行機や船などの航路の問題でdirectionを問われたらbearingで答えるのが一般的です.

【Bearing 問題】
Boat A is at (x1y1)=(2, 4) at exactly 2:17 pm. It sails with velocity vector (1, 3). Boat B is at  (x2y2)=(11, 3). It begins to sail with velocity vector (1, a) at 2:19 pm to meet the boat A. Distance units are metres and t is in minutes from 2:17 pm.
a) Find x1(t) and y1(t) for boat A.
b) Find x2(t) and y2(t) for boat B.
c) At what time do they meet?
d) What was the direction and speed of boat B?
(正解はこちら

<Reference>
Bearings
http://www.mathsteacher.com.au/year7/ch08_angles/07_bear/bearing.htm

Jul 7, 2016

Stars and Bars Method

直訳すると「星と棒の方法」となりますが,combination with repetition(重複組合せ)の問題,別名multichoose problemまたはstars and bars problemと呼ばれる問題を解く方法です.

例えばりんご,みかん,バナナの3種類が多数ある中から4個を選ぶとします.すると(りんご、みかん、バナナ)の数の組合せは、
①全種類から少なくとも一つは選ぶ場合
(1,1,2),(1,2,1),(2,1,1)
の3通りあります.
②選ばない種類があってもいい場合
(0,0,4),(0,1,3),(0,2,2),(0,3,1),(0,4,0),
(1,0,3),(1,1,2),(1,2,1),(1,3,0),
(2,0,2),(2,1,1),(2,2,0),
(3,0,1),(3,1,0),
(4,0,0)
の15通りと急に多くなります.

種類や選ぶ個数が多くなったらどうするか.ここでstars and bars methodを使います.n種類のものが多数ある中からr個を選ぶとしましょう.

②の場合から先に考えます.これは,r個の★とn-1個の仕切り|(たて棒)を一列に並べる場合の数,すなわち「2種類の同じものを含む順列」n+r-1Cr=n+r-1Cn-1と同じになります.例えば上の②の場合のいくつかをstars and barsで表すと次のようになります。
(0,0,4)=||★★★★
(1,0,3)=★||★★★
(1,1,2)=★|★|★★
(4,0,0)=★★★★||
2本の仕切りの左側がりんご,間がみかん,右側がバナナと決めておけば,すべて同じ★で表してもいいわけです.n+r-1Crは簡単にnHrと表します.この場合はn=3,r=4なので,3H4=3+4-1C4=6C4=6C2=15と計算できます.

日本の参考書等では★の代わりに○がよく使われていますから,circles and barsといってもいいかも知れません.

①の場合は,まず各種類から1個ずつ選んでおいて,残りのr-n個を②の場合と同様に考えます.すなわち,nHr-n=3H4-3=3H1=3C1=3で求められます.

以上をまとめると,
①全種類から少なくとも一つは選ぶ場合
nHr-n
②選ばない種類があってもいい場合
nHr=n+r-1Cr=n+r-1Cn-1

さて上の果物の問題は,方程式x+y+z=4の整数解の組の個数を求める問題といえます.
①は正の整数解の組の個数を求める場合で,(x,y,z)の組合せは3H4-3=3通りです.
②は負でない整数解の組の個数を求める場合で,(x,y,z)の組合せは3H4=15通りです.
これらの数の組をmultiset(多重集合)といいます.

②の場合,nHrと表しますが,binomial coefficient(二項係数)nCrを$\binom{n}{r}$と書くときは,nHrを$\left(\!\binom{n}{r}\!\right)$と書きます.以上をまとめて式で表すと次のようになります.$$ _n H_r =\left(\!\binom{n}{r}\!\right)= _{n+r-1} C_r=\binom{n+r-1}{r}=\left( n-1, r \right)!=\frac{(n+r-1)!}{(n-1)!r!}$$途中の式$\left( n-1, r \right)!$は,multinomial coefficient(多項係数)の2項の場合の表し方で,多項係数の場合は次の式になります.$$\left(n_{1},n_{2},\cdot\cdot\cdot,n_{k}\right)!=\frac{(n_{1}+n_{2}+\cdot\cdot\cdot+n_{k})!}{n_{1}!n_{2}!\cdot\cdot\cdot n_{k}!}$$
因みに,次数が等しい項だけでできている多項式をhomogeneous polynomial(同次多項式または斉次多項式)といい、このlike term(同類項)の種類の数が重複組合せになります.nHrのHはこのhomogeneousの頭文字から来ています.
(例)x,y,zでできる4次の項
(0,0,4)=||★★★★→z4
(1,0,3)=★||★★★→xz3
(1,1,2)=★|★|★★→xyz2
(4,0,0)=★★★★||→x4

<Reference>
Multichoose
http://mathworld.wolfram.com/Multichoose.html

May 7, 2016

SOHCAHTOA

三角比の覚え方です.直角三角形のある角$\theta$のsine(正弦), cosine(余弦), tangent(正接)の値は,hypotenuse(斜辺), opposite(対辺), adjacent(隣辺)を用いて,
$$\sin\theta=\frac{\mathrm{opposite}}{\mathrm{hypotenuse}}$$$$\cos\theta=\frac{\mathrm{adjacent}}{\mathrm{hypotenuse}}$$$$\tan\theta=\frac{\mathrm{opposite}}{\mathrm{adjacent}}$$
と定義されます.英語では分数は分子から読みますから,例えばsinはopposite over hypotenuse(またはopposite devided by hypotenuse)なのでSOHという順になり,これらの頭文字をとって,SOHCAHTOAと覚えましょうというわけです.日本ではよく図のような覚え方が参考書などで紹介されています.$$\sin\theta=\frac{y}{r}, \quad \cos\theta=\frac{x}{r}, \quad \tan\theta=\frac{y}{x}$$海外では高校程度の教科書に,他の三角関数として,sine, cosine, tangentのreciprocal(逆数)であるcosecant(余割), secant(正割), cotangent(余接),まとめてreciprocal trigonometric function(割三角関数)がよく登場します.SOHCAHTOAと同じように,CHOSHACAOという覚え方があります.
$$\csc\theta=\frac{\mathrm{hypotenuse}}{\mathrm{opposite}}, \quad \sec\theta=\frac{\mathrm{hypotenuse}}{\mathrm{adjacent}}, \quad \cot\theta=\frac{\mathrm{adjacent}}{\mathrm{opposite}}$$このうちsecantとtangentは別の意味で,つまりsecantは割線,tangentは接線という意味でよく使われます.割線とは2点を通る直線という意味ですが,日本の高校教科書ではこの用語は使われていません.$$\csc\theta=\frac{r}{y}, \quad \sec\theta=\frac{r}{x}, \quad \cot\theta=\frac{x}{y}$$またinverse function(逆関数)であるarcsineまたは$\sin^{-1}$, arccosineまたは$\cos^{-1}$, arctangentまたは$\tan^{-1}$も,世界中でインターナショナルスクールを中心に広く普及している教育課程「国際バカロレア」の高校数学Higher Level(主に理系)では登場します.周期関数の逆関数は多価関数になるので,定義域を制限して一価関数にしたものを特に主値と呼び,最初を大文字で表します.例えば,sin30°=1/2なので,次式が成り立ちます.$$\mathrm{Arcsin}\left(\frac{1}{2}\right)=\mathrm{Sin}^{-1}\left(\frac{1}{2}\right)=30^{\circ}$$

May 5, 2016

FOIL Method

日本の中学数学3で学習するbinomial(2項式)同士の積を展開するには次のように計算します.$$(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd$$この計算は,まずFirst terms同士を掛け(ac), 次にOuter(ad), Inner(bc), Last(bd)と計算するので,これらの頭文字をとってFOIL methodといいます.このような覚えやすい方法をmnemonicといい,このように頭文字をとって新たな単語のように読む用語はacronym(頭字語)といいます.右の計算の続きはこうなります.
\begin{align}
(2x+3)(4x-5)&=2x\cdot4x+2x\cdot(-5)+3\cdot4x+3\cdot(-5)\\
&=8x^2-10x+12x-15\\
&=8x^2+2x-15\\
\end{align}
この方法は他にも面白い言い方があって,crab claw method ともいいます.直訳すると「カニの爪」ですが,図のように掛けるもの同士を結ぶとカニの爪に見えるというところからこう呼ばれています.

日本ではこの計算方法に特別な名前はありません.

この応用として,binomial theorem(二項定理),trinomial theorem(三項定理),multinomial theorem(多項定理)があります.

二項定理
\begin{align}
(a+b)^2&=a^2+2ab+b^2\\
(a+b)^3&=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3\\
(a+b)^n&=a^n+\binom{n}{1}a^{n-1}b+\cdot\cdot\cdot+\binom{n}{n-1}ab^{n-1}+b^n\\
&=\sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}a^{n-k}b^k\\
\end{align}

ここで各項のcoefficient(係数)は,$$\binom{n}{k}=\frac{n!}{k!(n-k)!}$$で得られ,これらを並べるとPascal's triangle(パスカルの三角形)ができます.

三項定理 (日本の高校教科書ではこれを多項定理と呼んでいます)
\begin{align}
(a+b+c)^2&=a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca\\
(a+b+c)^3&=a^3+b^3+c^3+3a^2b+3a^2c+3b^2a+3b^2c+3c^2a+3c^2b+6abc\\
(a+b+c)^n&=\sum_{\substack{i+j+k=n}}\binom{n}{i,j,k}a^ib^jc^k\\
\end{align}ここで各項の係数は,$$\binom{n}{i,j,k}=\frac{n!}{i!j!k!}=(i,j,k)!$$で得られ,これらを並べるとPascal's tetrahedron(パスカルの正四面体)またはPascal's pyramid(パスカルのピラミッド)ができます.

多項定理
\begin{align}
(a_1+a_2+\cdot\cdot\cdot+a_m)^n&=\sum_{k_1+k_2+\cdot\cdot\cdot+k_m=n}\binom{n}{k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot,k_m}\prod_{1\leq t\leq m}a_t^{k_t}\\
\end{align}ここで各項の係数は,$$\binom{n}{k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot,k_m}=\frac{n!}{k_1!\cdot k_2!\cdot\cdot\cdot k_m!}=(k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot, k_m)!$$で得られ,これらを並べるとPascal's simplex(パスカルの単体)ができます.このsimplex単体)とは,0次元の点,1次元の線分,2次元の三角形,3次元の四面体をn次元に一般化したものです.

因みに,このfoilという単語はもともとあって,金属の薄片,箔を意味します.あまりご縁はありませんが,ネイルアートでは爪にnail foilという薄片を貼りつけて装飾します.台所用品のアルミホイル(アルミ箔)は,実はaluminium foilなので,アルミフォイルと呼ぶべきところです.似たような言葉でアルミホイールといえば車に装備するaluminium wheelになります.

May 3, 2016

Tabular Method

表を使う方法という意味のtabular methodは,表解法,表手法,テーブル法などと和訳されていて,高校数学Ⅲのintegration by parts(部分積分)$$\int{uv'}dx=uv-\int{u'v}dx$$のところで,繰り返しの必要な計算を速くするのに役立ちます.この方法は映画"Stand And Deliver(落ちこぼれの天使たち)"(1987年)の中で紹介されたのでStand And Deliver method,または3×3の表に○×を並べていくゲーム"Tic Tac Toe(三目並べ)"に因んでTic-Tac-Toe method(因数分解にもこう呼ばれる解法があります),あるいはrapid repeated integration(直訳すると迅速反復積分?)とも呼ばれることがあります.

具体例をひとつ見てみましょう.下の表より,$$\int{x^2\sin x}dx=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x+C$$

右側の表をじっくり見てみましょう.左の列は$x^2$を次々に微分したもの,中央の列は$\sin x$を次々に積分したもの,右の列は符号です.折れ線でつながるものを与式の右辺に書き出せば正解が得られます.

繰り返し部分積分を必要とする関数にはexponentials(指数関数),logs(対数関数),trig functions(三角関数),inverse trig functions(逆三角関数),powers(べき関数)別名algebraic functions(代数的関数)の5つがあります.参照した論文ではこの5つの覚え方を次のように紹介していました.
When doing integration by parts, We want to try first to differentiate Logs, Inverse trig functions, Powers, Trig functions and Exponentials. This can be remembered as LIPTE which is close to ”lipton” (the tea).
For coffee lovers, there is an equivalent one: Logs, Inverse trig functions, Algebraic functions, Trig functions and Exponentials which can be remembered as LIATE which is close to ”latte” (the coffee).
(Integration by parts - Harvard Mathematics Department)
5つの関数の頭文字をとって,紅茶好きはliptonに似たLIPTE,コーヒー好きはlatteに似たLIATEと覚えましょうというわけです.

他の分野でもtabular methodという名前のついた解法があり,応用数学ではlinear convolution(線形畳み込み),ブール代数ではminimisation(最小化)などに使われていますが,表を使うということが共通なのであって,実際の方法は全く異なります.

【Tabular Method 問題】
1 Integrate $\displaystyle\int{x^2\log x}dx$
2 Find the anti derivative of $\displaystyle\int{x^6e^x}dx$
3 Find the antiderivative of $\displaystyle\int{e^{-x}\sin x}dx$
(正解はこちら

<Reference>
Integration by parts - Harvard Mathematics Department
http://www.math.harvard.edu/~knill/teaching/math1a_2012/handouts/39-parts.pdf

May 1, 2016

R-alpha Method


日本の高校数学Ⅱに登場する三角関数の合成は,compound angle formula(加法定理)を使って,express asinx+bcosx in the form Rsin(x+α) or Rcos(x+α) すなわち,sinxとcosxのlinear combination(一次結合または線形結合)であるasinx+bcosxをRsin(x+α)またはRcos(x+α)の形に表すことをいい,
R-alpha methodまたはR formulaと呼ばれることがあります.式で表すとこうなります.$$a\sin{x}+b\cos{x}=R\sin\left(x+\alpha\right)$$ ただし,$$R=\sqrt{a^2+b^2},\quad\alpha=\arctan\frac{b}{a}$$簡単な例としてa=b=1のときはこうなります.$$\sin{x}+\cos{x}=\sqrt{2}\sin\left(x+\frac{\pi}{4}\right)$$この意味の英語への直訳は,Synthesis of trigonometric functionsとなりますが,あまり使われていません.synthesisは総合,統合または(化学反応の)合成という意味があり,物理では音の合成にこの用語を使います.この派生語でsynthesiser(またはsynthesizer)という音を合成する機械があります.

大学の理系なら,いろいろな関数を三角関数の線形結合で次のように近似するFourier series(フーリエ級数)を学習します.$$f(x)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^\infty(a_n\cos{nx}+b_n\sin{nx})$$この式の右辺でa0=0, an=bn=n=1のときがすぐ上の式の左辺に当たります.

合成という日本語を使う他の数学用語の例として,composite function(合成関数)があります.これは,ある関数で得られた値をまた別の関数に代入して値を得る場合に使います.例えば,$f(x)=2x$,$g(x)=x^2$のとき,$f\circ g(x)=f(g(x))=2x^2$となります.三角関数の合成関数なら,例えば$\sin(\arccos\frac{3}{5})=\displaystyle \frac{4}{5}$などがそうです.因みに物理ではcomposition of force(力の合成)でこの言葉を使います.

たまたま検索してみたら,Yahoo知恵袋に,「三角関数の合成は,英語で何と言いますか?」という質問と回答があったのですが,そのBest Answerがcompositions of trigonometric functionsとなっていました.これはどうもBest Answerとは言い難いですね.

【R-alpha Method 問題】
Solve the 4sinx+6cosx=3 in the range of 0°≤x<360° by dividing the answers to the nearest degree.
(正解はこちら


Apr 24, 2016

Midsegment Theorem

三角形の2辺の中点を結んだ線分をmidsegmentといい,midsegmentがもう一つの辺と平行で長さが半分であるという定理がmidsegment theoremで,midpoint theorem(中点定理)ともいい,日本の中学数学3の教科書では中点連結定理と呼ばれています.直訳するとmidpoint connector theoremとなりますが,この表現はあまり使われていません.かといってmidsegmentの方も適した日本語訳はありません.

他にもsegment in triangle(三角形の中にできる線分)は,このmidsegment以外にもいろいろあり,特に次の4つは有名で,special segments in triangleとして紹介されます.
①median(中線)… 頂点とその対辺の中点を結んでできる線分で,それらの交点はcentroid(重心)になります.
②altitude(垂線)… 頂点から対辺に垂直に降ろした線分で,それらの交点はorthocenter(垂心)になります.
③angle bisector(内角の2等分線)… 内角を2等分する線分で,それらの交点はincenter(内心)になります.
④perpendicular bisector(垂直2等分線)… 辺の中点を通りその辺に垂直な線分で,それらの交点はcircumcenter(外心)になります.
このうち上の3つは,三角形の頂点から対辺に降ろした線分Cevian(チェバ線)の一種でもあります.

日本の中学数学3の教科書には中点連結定理の応用として,「任意の四角形の各辺の中点を隣同士順につないでいくと平行四辺形になる」ことを証明するという問題が必ずあります.この定理をVarignon's Theoremといい,この平行四辺形をVarignon parallelogramといいます.四角形や四面体の対辺の中点同士を結んでできる線分をbimedianといいますが,これはVarignon parallelogramの対角線に当たるので,互いに他を2等分します.

さて,三角形のmidsegmentを3本引くと4つの三角形に分かれます.その中央だけを抜いて残りの3つにまた同じことをして繰り返すと,図のようなSierpiński triangle(またはSierpiński gasketまたはSierpiński sieve)と呼ばれるfractal(自己相似)図形になります.
長さ$\frac{1}{m}$の相似図形がn個残る場合のfractal dimension(フラクタル次元)はlogmnと定義されます.従ってこの場合は,長さ$\frac{1}{2}$の相似図形が3つ残りますから,Sierpiński triangleのfractal dimensionはlog23=1.584962501...≈1.58となります.

【Midsegment Theorem 問題】
Find the fractal dimension of Cantor set and Koch curve.
(解答はこちら

<Reference>
Varignon's Theorem
http://mathworld.wolfram.com/VarignonsTheorem.html

Pierre Varignon (1654–1722) French mathematician

Bimedian
http://mathworld.wolfram.com/Bimedian.html

Jan 31, 2016

Argand Diagram

Cartesian plane(デカルト平面)の x軸を real axis(実軸)とし,y軸を imaginary axis(虚軸)として複素数$z=x+yi$を表す平面は,complex plane(複素平面),または Gauss(1777-1855)が導入したのでGaussian plane(ガウス平面),または複素数はよくzで表されるのでz-plane(z平面)ともいいます.さらにこの別名で英書によく登場するのが,ガウスより先に用いたとされるJean-Robert Argand (1768–1822)の名をとった Argand plane(アルガン平面)と Argand diagram(アルガン図)という呼び方です.

Wolfram Math Worldというサイトでは,
the Argand diagram (also known as the Argand plane)
WikipediAというサイトでは,
The complex plane is sometimes called the Argand plane because it is used in Argand diagrams
Maths is Funというサイトでは,
plane for complex numbers (It is also called an "Argand Diagram")
Haese MathematicsというIBの教科書では,
We can illustrate complex numbers using vectors on the Argand plane. We call this an Argand diagram.

このように,Argand planeとArgand diagramは同じ意味に使われることが多いですが,時にはArgand plane上にcomplex numbersを図示したものをArgand diagramと呼ぶ場合があります.この用語は日本ではあまり使われませんが,英語での出題で時々用いられるので知っておきたいところです.

複素関数(複素数から複素数への関数)$w=f(z):z=x+yi\rightarrow w=u+vi$は高校では扱われませんが,少し見てみましょう.

複素関数の一次関数は一次分数関数ともいって,$w=\frac{az+b}{cz+d}$で表され,具体的には$w=az, \space \space w=z+b, \space \space w=\frac{1}{z}$の3つの場合があります.はじめの2つは,直線は直線,円は円に写るのですが,最後の式は,直線が円,円が直線に写る場合があります.

複素関数の指数,対数,三角関数はEuler's formula(オイラーの公式)$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$を元に定義されます.$z=x+yi=r(\cos\theta+i\sin\theta)$としましょう.

まず指数関数は次式になります.$$e^z=e^{x+yi}=e^x\cdot e^{yi}=e^x(\cos y+i\sin y)\tag{1}$$この式にはsinとcosが含まれるので,$e^{z+2n\pi i}$がすべて同じ値になるような周期関数になります.

次に対数関数は次式になります(以降,$\log_e$は$\ln$と書きます).$$\ln z=\ln(re^{i\theta})=\ln r+\ln e^{i\theta}=\ln r+i\theta\tag{2}$$Euler's formulaに$\theta=\pi$を代入するとEuler's identity(オイラーの等式)$$e^{i\pi}=\cos\pi+i\sin\pi=-1$$が得られますが,これを対数の定義で変形すると次式になり,「対数の真数は正」という高校数学の常識が覆ります.$$\ln(-1)=i\pi$$しかし,$z=-1$となるのは$r=1$,$\theta=\pi+2n\pi$のときなので式(2)は無限多価関数になり,$\ln(-1)$は$\pi i$以外にも$3\pi i$,$5\pi i$など,無限個の値をとることになります.

次に三角関数です.z=x+yiのxとyが複素数であってもzはやはりa+biの形になるので,Euler's formulaより$$e^{iz}=\cos z+i\sin z\tag{3}$$$$e^{-iz}=\cos z-i\sin z\tag{4}$$(3)と(4)の和と差をそれぞれ2,2iで割ると$$\cos z=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}$$$$\sin z=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}$$となり,これが複素関数の三角関数の定義になっています.もう少し学習が進むと分かるのですが,複素関数を使うと,実数のままでは難しい積分計算も簡単にできる場合があります.その例をひとつあげておきます.$$\int_0^{\infty} \frac{\sin x}{x}dx=\frac{\pi}{2}$$
<Reference>
"Argand Diagram" Wolfram Math World
"Complex plane" WikipediA
"Complex Plane" Maths is Fun
"Mathematics for the international student Mathematics HL (Core) third edition" Haese Mathematics
「解析概論」 高木貞二著


Jan 24, 2016

Compound Interest

やはりinterestといえば,「興味,関心」という言葉が真っ先に思い浮かぶので,compoundが「複合,混合,複数」というような意味だと知っていても,数学ではどんな意味なのかなと思ってしまうのですが,interest にはもうひとつ「利息」という意味もあるので,compound interestは複利計算の「複利」という意味になります.関連して,1年ごとの利息のいい方を"5% p.a."などという場合があります.これはラテン語"per annum"の略で,"by the year"の意味です.

まずinitial amount or principal(元金)を$P$,annual interest rate(年利率)を$r$とします.annual(1年ごと)の複利では,$t$年後の元利合計$A(t)$は次式になります.$$A(t)=P(1+r)^t$$次にsemi-annual(半年ごと)の複利では,$r$の半分の利息で年に2回,上の計算をしますから,$t$年後の元利合計$A(t)$は次式になります.$$A(t)=P\left(1+\frac{r}{2}\right)^{2t}$$同様に,quarterly(3か月ごと), monthly(毎月), daily(毎日)となると,$$A(t)=P\left(1+\frac{r}{4}\right)^{4t},\space \space \space A(t)=P\left(1+\frac{r}{12}\right)^{12t},\space \space \space A(t)=P\left(1+\frac{r}{365}\right)^{365t}$$となり,実際に数字を代入して計算すると,少しずつ増えていきますが,増え方は減っていきます.これをさらに毎分,毎秒と細かく計算していって極限を考えると一定の値に近づきます.$$A(t)=\lim_{n\rightarrow \infty} P\left(1+\frac{r}{n}\right)^{nt}$$ここで$\frac{r}{n}=x$とおくと,$n=\frac{r}{x}$となり,$x\rightarrow 0$となるので次の式が得られます.$$A(t)=\lim_{x\rightarrow 0} P\left(1+x\right)^{\frac{rt}{x}}=\lim_{x\rightarrow 0} P\lbrace(1+x)^\frac{1}{x}\rbrace^{rt}=Pe^{rt}$$この最後の式の中の$e$はNapier's number(ネイピア数=base of the natural logarithm自然対数の底=2.71828....)で,この式をcontinuous compound interest formula(連続複利の公式)といいます.

因みに三角関数の加法定理は,Trigonometric Addition FormulaとかAngle Addition Formulaと呼ばれていますが,加法定理は他の分野にもあり,それと区別するためかCompound Angle Formulaとも呼ばれています.

経済用語に,CAGR(Compound Annual Growth Rate=年平均成長率)というのがあります.例えばある商品の5年間の売り上げデータがあり,前年より何%増えたかというgrowth rate(成長率)が1.7%, 1.6%, 22.6%, 31.6%だったとします.arithmetic mean(相加平均)なら$$\frac{1.7+1.6+22.6+31.6}{4}=14.4\text{%}$$になりますが,CAGRは各前年比のgeometric mean(相乗平均)から1を引きます.すなわち,次の計算になります.$$\sqrt[4]{1.017\times1.016\times1.226\times1.316}-1\approx1.136-1=0.136=13.6\text{%}$$【Compound Interest 問題】
An amount of $2,340.00 is deposited in a bank paying an annual interest rate of 3.1%, compounded continuously. Find the balance after 3 years.
(解答はこちら

<Reference>
Continuous Compound Interest Formula
http://cs.selu.edu/~rbyrd/math/continuous/
CAGRとは
http://www.nsspirit-cashf.com/yougo/yougo_cagr.html
Grammatical Sentence Types 重文(compound sentence)と 複文(complex sentence)の違い
http://english-writing-theaters.com/5_basic.html
Compound Fracture 複合骨折; 開放骨折; 複雑骨折
http://medical-dictionary.thefreedictionary.com/compound+fracture


Jan 23, 2016

Complement and Supplement

英語の文型にSVCやSVOCがあり,このCをcomplement(補語)といいますが,数学ではいくつか異なる意味があります.

代数では,n桁の正の整数$a$に対して,$10^n-a$をcomplement(補数)といいます.例えば,3の補数は10-3=7,34の補数は100-34=66,345の補数は1000-345=655です.補数はもともとコンピューターの演算でnegative number(負の数)を表すのに考えられたもので,補数を使うと引き算を足し算ですることができ,計算回路を簡素にすることができます.その方法は,a-bを計算するのにa+(aの補数)を計算してから一番上の桁を無視するというものです.簡単な例を見てみましょう.

まず補数を求めるのに,例えば上の1000-345は,このままだと繰り下がり(一般には「隣から1を借りる」)という操作をしなければならないので,999-345を求めてから1を足します.式で表すと,$10^n-1-b+1$で補数を計算させます.従って,引き算全体を式で表すと次のようになります.$$a-b=a+(10^n-1-b+1)-10^n$$最後の$-10^n$は,「一番上の桁を無視する」ことになります.例えばa=623, b=154のときは,\begin{align}
623-154&=623+(10^3-1-154+1)-10^3\\
&=623+(999-154+1)-10^3\\
&=623+(845+1)-10^3\\
&=623+846-10^3\\
&=1469-10^3\\
&=469\\
\end{align}と計算させます.こうすると繰り下がりがなくなります.

補数の中でも特にtwo's complement(2の補数=2進数の補数)がコンピューターで利用されていますが,この場合は1を0に,0を1に変えて1を足したものが補数になります.例えば2進数0101の2の補数は,1010に1を加えて1011となります.その計算は,\begin{align}10000-1-0101+1&=1111-0101+1\\
&=1010+1\\
&=1011\end{align}となります.確かに2進数では0101+1011=10000になりますね.

集合論では,全体集合Uとその部分集合Aに対して,UからAを除いたものをAのcomplement(補集合)といい,$A^C$とか$\bar{A}$で表します.例えば,整数全体の集合で,偶数全体の集合のcomplementは奇数全体の集合になります.

幾何の用語ではcomplement (of an angle)またはcomplementary angle(余角=和が90°になる2つの角),complementary arc(余弧=和が円になる2つの弧)があります.

似たような意味の用語にsupplementがあります.幾何の用語ではsupplement (of an angle)またはsupplementary angle(補角=和が180°になる2つの角),supplementary arc(補弧=和が半円になる2つの弧),supplemental chord / supplementary chord(補弦=半円の直径の両端と弧上の点を結ぶ2つの弦)があります.

Complementもsupplementも「補う」という意味ですが,前者は「もっと良くなるように補う」,後者は「足りないので補う」というように微妙な意味の違いがあります.complementと似た単語でcomplimentがあり,こちらは賛辞とか祝辞という意味があります.発音はほとんど変わりませんが,カタカナではコンプルメントとコンプリメントと区別したほうが良さそうです.栄養補助食品はsupplementなのに,カタカナでサプリメントとよく書かれてあるので,サプルメントの方がいいと思います.

<Reference>
基本情報技術者講座
http://www.it-license.com/cardinal_number/complement.html
complementary arc
http://praveena91pm.blogspot.jp/2015/10/innovative-lessontemplate-nam-e-of_31.html
supplementary arc
http://www.mathresources.com/products/mathresource/maa/supplementary_arc.html

Jan 20, 2016

Alternate Segment Theorem

この定理の説明の英文は次のようになります.
The angle between the tangent and chord at the point of contact is equal to the angle in the alternate segment.
この"tangent and chord"が「接線と弦」という意味なので,この定理は「円の接線と弦の作る角の定理(接弦定理=円の接線とその接点を通る弦が作る角は、その角の中にある弧の円周角に等しい)」を意味しています.ところが英語では"tangent chord theorem"とはあまり呼ばれず,一般にalternate segment theoremと呼ばれています.

もともとalternateは「交互の」とか「反対側の」という意味で,例えば錯角も,2本の平行線の内側に交互に存在するのでalternate interior angleといいます.またsegmentは「部分」とか「区分」という意味で,数学では直線の部分なら線分を意味しますが,ここでは円の部分,すなわち弦によって分割される弓形(弦と弧で囲まれた図形)を意味しています.弦が直径の場合は2つのsemicircle(半円)になりますが,そうでない場合は大きい弓形major segment(優弓形)と小さい弓形minor segment(劣弓形)に分かれます.これはmajor arc(優弧)とminor arc(劣弧)と同様の呼び方ですね.

接線と弦の間の角から見て,その弦に関して反対側の弓形をalternate segmentといい,その中の角がthe angle in the alternate segmentになります.従って,「弦に関して同じ側の弓形の弧の円周角」は「弦に関して反対側の弓形の中の角」と同じ意味になります.なのでalternate segment theoremを直訳すると「反対側弓形の定理」と言えそうです.

「ユークリッドの原論」第3巻命題32の表現を見てみましょう.
Euclid's Elements Book III Proposition 32
If a straight line touches a circle, and from the point of contact there is drawn across, in the circle, a straight line cutting the circle, then the angles which it makes with the tangent equal the angles in the alternate segments of the circle.
直線が円に接していて,接点から円を分割する直線が引かれているとき,その直線と接線とでできる角は,反対側にある弓形の中の角に等しい.

2000年も前からalternate segmentsという言葉が使われていたのですが,どうやらこの定理を日本語訳するときに,alternate segmentsよりもtangent and chordの方が訳し易かったのではないかと思います.

<Reference>
Teach GCSE Math, Alternate Segment Theorem
http://slideplayer.com/slide/677852/

Jan 2, 2016

Magnitude

地震のエネルギーの大きさを表すのによく使われる"magnitude"という用語は,もともとは「大きさ」という意味で,英語では星の明るさ(等級)や音量(dBデシベル)などにも使われています.日本では地震用語以外に使われることはほとんどないですが,数学ではreal number(実数),complex number(複素数),vector(ベクトル)などに使われます.
Real number aのmagnitudeは
\begin{align}
&|a|=a&\text{if $a\geq0$}\\
&|a|=-a &\text{if $a<0$} \\
\end{align}で,real number line(実数直線)上での原点からの距離を表します.これはabsolute value(絶対値)またはmodulusと言われることが多く,関数$f(x)=|x|$はabsolute value function またはmodulus functionと呼ばれています.Complex number(複素数)c=a+biのmagnitudeは$$|c|=\sqrt{a^2+b^2}$$で,complex plane(複素平面)上での原点からの距離を表します.これもabsolute valueまたはmodulusと言われることが多いです.

2-vector(2次元のベクトル)$\pmb{v}=(a_1, a_2)$のmagnitudeも複素数と同じく$$|\pmb{v}|=\sqrt{ a_1^2+a_2^2}$$となり,ベクトルの大きさを表しますが,複素数は2次元のベクトルとみなせるので同じ式になります.同様に実数も1次元のベクトルとみなすことができます.

一般にn-vector(n次元のベクトル)$\pmb{v}=(a_1, a_2, \cdot\cdot\cdot, a_n)$のmagnitudeは$$|\pmb{v}|=\sqrt{ a_1^2+a_2^2\cdot \cdot \cdot+a_n^2}$$となります.Vectorの場合はmagnitudeと呼ばれることが多く,日本語で「ベクトルの大きさ」と言いますが,「ベクトルの絶対値」とは言わないので,それぞれ同じ意味なのに用語の使い方は微妙に異なっています.そしてこれらのすべて(magnitude,absolute value,modulus)をまとめて一般化したもので,次の3つの条件を満たすfunction(関数)$f(\pmb{v})=\parallel{\pmb{v}}\parallel$をnorm(ノルム)といいます.
\begin{align}
&\parallel{\pmb{v}}\parallel=0⇔\pmb{v}=\pmb{0}\\
&\parallel{a\pmb{v}}\parallel=\mid{a}\mid\parallel{\pmb{v}}\parallel\\
&\parallel{\pmb{u}+\pmb{v}}\parallel≤\parallel{\pmb{u}}\parallel+\parallel{\pmb{v}}\parallel\\
\end{align}
Normにもいろいろあり,次式はabsolute-value normといいます.$$\parallel{a}\parallel=|a|$$ベクトルの各成分の「平方の和の平方根」はEuclidean norm(2-norm)といって,これはベクトルの大きさにあたります.$$\parallel{\pmb{v}}\parallel_2=\sqrt{\sum_{i=1}^{n}|a_i|^2}=\sqrt{ |a_1|^2+|a_2|^2+\cdot \cdot \cdot+|a_n|^2}$$各$a_i$に|  |がついていますが,これは$a_i$が複素数の場合も考えるからです.「p乗の和のp乗根」として一般化したp-normは$$\parallel{\pmb{v}}\parallel_p=\sqrt[p]{\sum_{i=1}^{n}{|a_i|^p}}=\sqrt[p]{|a_1|^p+|a_2|^p+\cdot \cdot \cdot+|a_n|^p}$$となり,特にp=1のときはTaxicab norm (Manhattan norm)といって,格子上の2点間の最短経路にあたります.$$\parallel{\pmb{v}}\parallel_1=\sum_{i=1}^{n}|a_i|=|a_1|+|a_2|+\cdot \cdot \cdot+|a_n|$$さらにpが$\infty$のときはmaximum normといって,n個の$|a_i|$のうちの最大値になります.$$\parallel{\pmb{v}}\parallel_\infty=Max(|a_1|,|a_2|,\cdot \cdot \cdot,|a_n|)\tag{1}$$この式(1)を証明しておきましょう.$M=Max(|a_1|,|a_2|,\cdot \cdot \cdot,|a_n|)$とおくと,$M$は$|a_i|$のうちのひとつなので,$M\leq \parallel{\pmb{v}}\parallel_p$であり,さらに$\frac{|a_i|}{M}\leq1$なので,$$M\leq \parallel{\pmb{v}}\parallel_p=\left({\sum_{i=1}^{n}{|a_i|^p}}\right)^\frac{1}{p}=M\left(\sum_{i=1}^{n}\left(\frac{|a_i|}{M}\right)^p\right)^\frac{1}{p}\leq M\cdot n^\frac{1}{p}$$最右辺は$p\rightarrow\infty$のとき$M$になるので,Squeeze Theorem(はさみうちの原理)より,$\parallel{\pmb{v}}\parallel_\infty=M$となり,式(1)が証明できました.

アメリカの地震学者Charles Francis Richter(1900-1985)が考案した地震のmagnitude "Richter scale"は,震央から100km離れた標準地震計が記録した最大振幅$I$(単位はmicro metre=µm=$10^{-6}$m)と標準地震の振幅$I_0$(1 µm)の比の常用対数をとったもので,次式で計算します.
$$R=\log_{10}\frac{I}{I_0}$$
因みに,星の明るさや音量にも対数が使われています.

【Magnitude 問題】
Early in the century the earthquake in San Francisco registered 8.3 on the Richter scale. In the same year, another earthquake was recorded in South America that was four time stronger. What was the magnitude of the earthquake in South American?
(解答はこちら

<Reference>
Foundations of Signal Processing (Cambridge University Press)
Understanding the proof that L∞ norm is equal to max{f(xi)}
http://math.stackexchange.com/questions/109615/understanding-the-proof-that-l-infty-norm-is-equal-to-max-fx-i
Earthquake Word Problems