Aug 18, 2017

Natural Number

Natural number(自然数)は,用語としては簡単ですが,意外なのはその定義が異なる場合があるということです.日本の学習指導要領で,natural numberの定義はpositive integer(正の整数){1, 2, 3, ....} なので,これが当然のように思われますが,場合によってはnon-negative integer(負でない整数){0, 1, 2, 3, ....} をnatural numberとする場合があります.つまりnatural numberに0を含む場合があるということです.海外の数学教科書には,natural numberに0を含む場合と含まない場合が混在しています.

ISO = International Organization for Standardization(国際標準化機構)が2009年に公表したISO 80000-2は,数学記号について定義している国際規格ですが,ここでは次のように書かれています.
2-6.1 $\mathbb{ N }$
the set of natural numbers,
the set of positive integers and zero
$\mathbb{ N }$ = {0, 1, 2, 3, ...}
$\mathbb{ N }^*$ = {1, 2, 3, ...}
この記述から判断するならば,自然数に0を含むのが国際標準といえそうです.余談ですが,ISO 80000-2英語版では"positive integer"なのにWikipedia日本語版の"ISO 80000-2"が「正の数」となっていたので,「正の整数」に訂正しておきました.これで修正したのは,たぶん5~6回目ぐらい,アカウント登録してからは2回目です(笑).

Whole number も integer(整数),またはpositive integer(正の整数),またはnon-negative integer(負でない整数)と説明されることがあり,定義がはっきりしないのですが,英語の本にはよく登場します.この3つの定義のどれかを掲載している辞書が多いのですが,ここ(THE FREE DICTIONARY)だけは3つの意味を併記していました.
whole number
1. A member of the set of positive integers and zero.
2. A positive integer.
3. An integer.
Counting number {1, 2, 3, ....} は文字通り「数える数=計数」ですが,意味はpositive integer(正の整数)で,比較的低学年の教科書によく登場します.

On-Line Encyclopedia of Integer Sequences = OEIS(オンライン整数列大事典)にはnatural numberの項目はなく,以下のようになっています.
A000027 {1, 2, 3, ...}
The positive integers. Also called the natural numbers, the whole numbers or the counting numbers, but these terms are ambiguous(しかしこれらの用語は曖昧). 
A001477 {0, 1, 2, 3, ...}
The nonnegative integers.
因みにOEISのA000045:Fibonacci numbers(フィボナッチ数)は,F(n)=F(n-1)+F(n-2) with F(0)=0 and F(1)=1と定義されていますが,Wikipediaでは,F(1)=1 and F(2)=1が併記されています.これは,数列の初項を0, 1のどちらからでも始めていいという意味だと思われます.

また,WolframMathWorldでは以下のように述べられています.
「自然数」という用語は、 「正の整数」{1,2,3,...}(OEIS A000027),「負でない整数」{0,1,2,3,...}(OEIS A001477)の中にあるが,自然数に0を含めるかどうかに関する一般的な合意はない.基準となる用語がないため, "counting number","natural number","whole number"より,"positive integer","non-negative integer"という用語を使用することを推奨する.
国立教育政策研究所が2016年に実施した「平成28年度全国学力・学習状況調査」の中学校第3学年数学Aにこんな問題が出てしまいました.
1  (2)  次のア~オまでの中から自然数をすべて選びなさい.
ア -5    イ 0    ウ 1    エ2.5    オ 4
正答例はウとオなんですが,海外で教育を受けた帰国生の中にはイも正解として答えた生徒もいるはずです.気になったので主催者にこのことを説明して何らかの考慮をしないのか問い合わせてみましたが,案の定「正答例の通りで,特に考慮はしない」との回答でした.

[Reference]
Natural Number
https://en.wikipedia.org/wiki/Natural_number
ISO 80000-2
https://ja.wikipedia.org/wiki/ISO_80000-2
Natural Number
http://mathworld.wolfram.com/NaturalNumber.html
平成28年度全国学力・学習状況調査問題・正答例・解説資料について
http://www.nier.go.jp/16chousa/16chousa.htm

Aug 5, 2017

Diophantine Equations

古代ギリシャの数学者Diophantus(ディオファントス)の墓には彼の生涯を語る文章が書かれていて,それをもとに没年齢を求める一次方程式の応用問題が有名ですが,これはその一次方程式のことではありません.

Diophantine Equations(ディオファントス方程式)は,係数が整数で$ax+by=c$や$x^2+y^2=z^2$などの形をしたindeterminate equation(不定方程式=解が無数に存在する方程式)の総称で,他にもいくつかのパターンがあります.この中のひとつ,2012年からの日本の高等学校「数学A」に登場した「整数の性質」(2022年度から廃止)で学んだ$ax+by=c$の形の不定方程式は,cがaとbの最大公約数またはその倍数のときに整数解(x, y)が存在し,Bézout's identity(ベズーの等式)と呼ばれています.

簡単な例として,
$2x+3y=1$ …①
の整数解を求めてみましょう.まず簡単な数を代入してみて解を一組見つけます.例えば,
$2・(-1)+3・1=1$ …②
なので$(x,y)=(-1,1)$が一組の解になります.①から②を引くと
$2・(x+1)+3・(y-1)=0$
となり,移項すると
$2・(x+1)=-3・(y-1)$
になります.ここで2と3は互いに素(公約数が1だけ)だから,$x+1$は3の倍数でないといけないので$x+1=3k$(kは整数)と表すことができ,同様に$y-1=-2k$と表せます.よって,①のすべての整数解の組は
$(x,y)=(3k-1,-2k+1)$(kは整数)
と表せます.

もし最初に見つけた解が$(2,-1)$なら,同様にして
$(x,y)=(3k+2,-2k-1)$(kは整数)
となりますが,kの値が一つずれているだけで同じ解集合を表しています.これはグラフでいうと,直線$2x+3y=1$上の,lattice point(格子点=座標が整数になる点)を表しています.

ところが,
$73x+67y=1$ …③
のような大きい数になると,一組の解が簡単に見つかりません.そんな時はEuclidean Algorithm(ユークリッドの互除法)を使います.
$73=67\cdot 1+6$ より $6=73-67\cdot 1$
$67=6\cdot 11+1$ より $1=67-6\cdot 11$
右下の式に右上の式を代入すると,
$1=67-(73-67\cdot 1)\cdot 11=73\cdot (-11)+67\cdot 12$ …④
だから$(x,y)=(-11,12)$が一組の解になります.③から④をひくと
$73(x+11)+67(y-12)=0$
となり,移項すると
$73・(x+11)=-67・(y-12)$
になります.ここで73と67は互いに素だから,$x+11$は67の倍数でないといけないので$x+11=67k$(kは整数)と表すことができ,同様に$y-12=-73k$と表せます.よって,③のすべての整数解の組は
$(x,y)=(67k-11,-73k+12)$(kは整数)
と表せます.

因みに,碑文の問題はDiophantus's riddle(謎)とかDiophantus puzzle(パズル)とか呼ばれていて,一次方程式の応用問題としても有名ですが,Nintendo DSというゲームの"Professor Layton and Pandora's Box(レイトン教授と悪魔の箱)"の第142問目にも登場します.

【Diophantine Equations 問題】
(1) Two farmers agree that pigs are worth 300 dollars and that goats are worth 210 dollars. When one farmer owes the other money, he pays the debt in pigs or goats, with "change" received in the form of goats or pigs as necessary. (For example, a 390 dollar debt could be paid with two pigs, with one goat received in change.) What is the amount of the smallest positive debt that can be resolved in this way?
(A) 5  (B) 10  (C) 30  (D) 90  (E)  210

(2) Jack and Jill visit the cake shop every day, and Jack always buys jam doughnuts, and Jill chocolate éclairs. The jam doughnuts cost 0.95 each and the chocolate éclairs cost 0.97. At the end of the  week the non-itemised bill from the cake shop is 42.38. How much must each pay?
(解答はこちら

[Reference]
Diophantus's Riddle
http://mathworld.wolfram.com/DiophantussRiddle.html
Diophantine equation
https://en.wikipedia.org/wiki/Diophantine_equation
Diophantine equation
http://artofproblemsolving.com/wiki/index.php?title=Diophantine_equation
Number Theory Using Modular Arithmetic to Solve Indeterminate Equations
https://trans4mind.com/personal_development/mathematics/numberTheory/indeterminateEquationsCongruences.htm

Aug 1, 2017

Circular Functions

Trigonometric functions(三角関数)を,unit circle(単位円)を用いて定義した場合,circular functions(円関数)と呼ぶ場合があります.日本では主に三角関数と呼ばれていますが,英語の本ではCircular FunctionsもTrigonometric Functionsもよく使われています.

■Circular (Trigonometric) Functions 円関数(三角関数)
    sine, cosine, tangent
■Reciprocal Circular Functions 割円関数(割三角関数)
    cosecant, secant, cotangent
■Inverse Circular Functions 逆円関数(逆三角関数)
    arcsine, arccosine, arctangent

このように,circular functionsはcircle(円)を表す関数ではありません.Hyperbolic functions(双曲線関数)もhyperbola(双曲線)を表しません.円関数は円のparameter(媒介変数)表示に,双曲線関数は双曲線の媒介変数表示に使われるのでこの名がついています.

■円の媒介変数表示       $(x, y)=(\cos t, \sin t)$     →  $x^2+y^2=1$
■双曲線の媒介変数表示 $(x, y)=(\cosh t, \sinh t)$  →  $x^2-y^2=1$

世界中最も多くの国で普及している高校カリキュラム「国際バカロレアディプロマプログラム(IB Diploma Program)」のMathematics Higher Level(主に理系向き)ではReciprocal Circular FunctionsもInverse Circular Functionsも登場します.

因みにElliptic Functions(楕円関数)もellipse(楕円)ではありません.

[Reference]
"Mathematics HL Core (3rd edition)" Haese Mathematics