Dec 31, 2015

Crisscross Method

変数xについてのtrinomial (3項整式)の$x^2$の係数が1でないときに$$Ax^2+Bx+C=(ax+b)(cx+d)$$と因数分解をする場合,日本では主にcrisscross method(たすきがけ)を利用します.cross methodともいいますが,なぜcrisscrossなのでしょうか.語源は中世英語の"Crist's cross"で,もともと「キリストの十字架」という意味だそうですが,今ではcrossと同じように「十字形」「十字交差」という意味で,その形は「+」または「×」を表します. 因みにchemistry(化学)の分野でもcrisscross methodがあり,数学の線形計画法などのoptimization(最適化)の分野ではcrisscross algorithmというものがあります.

日本ではこの形の因数分解で当たり前のようにこの方法を使いますが,海外ではいろいろな方法があります.ここでは$$Ax^2+Bx+C=acx^2+(ad+bc)x+bd$$すなわち,A=ac, B=ad+bc, C=bdとして話を進めます.なお,Aは0でも1でもない整数とします.

1. 係数A=ac,B=ad+bc,C=bdから直接求める方法
いろいろな場合を考えて,やり直しをしながら当てはまる数を見つける方法です.

1.1. Trial and Error Method (Guess and Check Method)
$(ax+b)(cx+d)$のa,b,c,dの場所を空白にして,当てはまる数を試行錯誤しながら(推測と確認をしながら)求めていきます.最も直接的で,書き直しが多く,時間がかかりそうですが,aとcはAの約数でbとdはCの約数なので,うまく数を見つけられれば速くできます.

1.2.
1.2. Crisscross Method (Cross Method), Chinese Method
いわゆる「たすきがけ」ですが,これも試行錯誤しながら当てはまる数を求めていきます.詳しくは日本の高校数学Ⅰの教科書を参照してください.

2. 係数AとCの積AC=adbcとB=ad+bcから求める方法
まずAC=adbcとB=ad+bcから,「積がACで和がBになる2数」,adとbcを求めます.これさえ求めればあとは試行錯誤しなくて済むのが大きな特徴です.この後のa,b,c,dの求め方によって,さらに細かく分類することができます.

2.1. Common factor(共通因数)
AC Method, Grouping Method, Product-and-Sum Method, Un-FOIL Method (Reverse FOIL Method), AC or Middle Term Splitting Method, British Method
見つかった2数を使って次のように変形します.$$acx^2+\pmb{ad}x+\pmb{bc}x+bd=ax(cx+d)+b(cx+d)=(ax+b)(cx+d)$$
2.2. Fraction(分数)
Diamond Method, X Method, X Factor Method, Star Method, Asterisk Method, California Method, Berry Method, Bottoms Up Method, Australian Method, Lizzie Method, ABC Method
図のようにadとbc に,acxやbdを掛けたり割ったりしてa,b,c,dを求めます.
2.2.

2.3.
2.3. Area(面積)
X Box Method, Box Method, Table Method, Umbrella and Box Method
田の字の箱で,4つの小長方形の面積の和が大長方形の面積になるように4つの項を決めます.

2.4. Table(表)
Tic-Tac-Toe Method
○×を並べていくゲーム"Tic Tac Toe(三目並べ)"と同じような3×3の表を使って,図のように値や式を当てはめていきます.左列と中列の積が右列,下段と中段の積が上段になっています.(部分積分にもこう呼ばれる解法があります)

2.4.
【Crisscross Method 問題】
上の2.1以降の方法で次の式を因数分解せよ.$$12x^2-61x-16$$(解答はこちら

Dec 27, 2015

Squeeze Theorem

別名pinching theoremまたはsandwich theorem ともいいますが,squeeze theoremは日本では「はさみうちの原理」のことです.squeezeというと「搾る」とか「押しつぶす」というイメージがあるので,"pinching"や"sandwich"の方が合うような気がします.日本の数学Ⅲのthe limit of a function(関数の極限)では,$$\lim _{x\rightarrow 0}\frac {x} {\sin x}=1$$の証明に使われています.これは,$$\sin x<x<\tan x$$が成り立つので,各辺を$\sin x$で割ると$$1<\frac{x}{\sin x}<\frac{1}{\cos x}$$になり,右辺の極限が1になることから,$\frac{x}{\sin x}$の極限も1になるというわけです.

海外の高校数学のthe limit of a sequence(数列の極限)の記述を見てみましょう.
The Squeeze Theorem
If we have sequences $\left\{a_n\right\}$, $\left\{b_n\right\} $ and $\left\{c_n\right\} $ such that 
$a_{n}\leq b_{n}\leq c_{n}$ for all $n\in \mathbb{Z} ^{+}$ and $\lim\limits_{n \to \infty} a_n=\lim\limits_{n \to \infty} c_n=L < \infty $
then 
$\lim\limits_{n \to \infty} b_n=L$.
The Squeeze Theorem says that if we can find two sequences that converge to the same limit and squeeze another sequence between them, then that sequence must also converge to the same limit.(Mathematics Higher Level Topic 9 Option Calculus - Cambridge University Press)

なぜ正の整数$\mathbb{Z} ^{+}$と書き,自然数$\mathbb{N}$と書かないのかというと,自然数には0を含む場合もあるからです.

【Squeeze Theorem 問題】
Use the Squeeze Theorem to find $\displaystyle\lim_{n \to \infty} \frac{n^n}{(2n)!}$
(解答はこちら

the limit of a functionの厳密な定義には,Bolzano (1817),Cauchy,Weierstrassらによって確立されたepsilon-delta definition($\varepsilon$-$\delta$論法)を使います.$\lim\limits_{x \to c} f(x)=L$を証明するのに,「どんなに小さな正の数$\varepsilon$があっても,うまく別の正の数$\delta$を決めて$|x-c|<\delta$にすれば$|f(x)-L|<\varepsilon$にできる」ことを示すというものです.このままでは分かりにくいので最も簡単な例を見てみましょう.$f(x)=2x$で,$x$が1に近づくときに$f(x)$が2に近づくことを証明しましょう.当たり前のような感じがしますが,厳密な証明は次のようになります.
小さな正の数$\varepsilon$に対し,$\delta=\frac{\varepsilon}{2}$と決めて,$|x-1|<\frac{\varepsilon}{2}$とすれば,$$|x-1|<\frac{\varepsilon}{2}\Leftrightarrow 2|x-1|<\varepsilon\Leftrightarrow |2x-2|<\varepsilon \Leftrightarrow |f(x)-2|<\varepsilon$$となって,$ |f(x)-2|<\varepsilon$を示すことができました.ここで$\delta=\frac{\varepsilon}{2}$は,上の式を逆算することによって決めることができます.

因みにthe limit of a sequenceの場合は,epsilon-N definition($\varepsilon$-N論法)となります.「どんなに小さな正の数$\varepsilon$があっても,あるNから先のnは$|a_n-L|<\varepsilon$にできる」ことを示します.これも簡単な例を見てみましょう.$a_n=\frac{n + 1}{2n}$で,$n$が限りなく大きくなるときに$a_n$が$\frac{1}{2}$に近づくことを証明しましょう.
小さな正の数$\varepsilon$に対し,$N=\frac{1}{2 \varepsilon }$と決めると,$n>N$では,$$n>\frac{1}{2 \varepsilon }\Leftrightarrow \frac{1}{n}<2\varepsilon\Leftrightarrow  \frac{1}{2n} <\varepsilon \Leftrightarrow \frac{n + 1 - n}{2n} < \varepsilon\Leftrightarrow \frac{n + 1}{2n} - \frac{1}{2} < \varepsilon$$となって,$ |a_n-\frac{1}{2}|<\varepsilon$を示すことができました.ここで$N=\frac{1}{2 \varepsilon }$は,上の式を逆算することによって決めることができます.

<Reference>
Cambridge University Press "Mathematics Higher Level Topic 9 Option Calculus"
Proving Limit of a Sequence using Epsilon N
http://mathhelpforum.com/calculus/206837-proving-limit-sequence-using-epsilon-n.html

Dec 25, 2015

Midnight Formula


ドイツ語で"Mitternachtformel",英語で"
midnight formula",すなわち「真夜中の公式」という意味ですが,実はquadratic formula(2次方程式の解の公式)のことです.$$ax^2+bx+c=0$$ $$x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\tag{1}$$ You have to be able to recite it when suddenly woken at midnight(真夜中に急に起こされても暗唱できるようにしなさい)と言われるほど重要だということでしょう.それだけ重要なので,覚えるための歌もあります.

式(1)でb=2b'とすると, $$x=\frac{-b'\pm\sqrt{b'^2-ac}}{a}\tag{2}$$ となりますが,これはbが偶数のときに後で約分する必要がなくなるのでよく使われています. また,式(1)の分子の有理化をすると次の式になりますが,これはあまり知られていません.
 
$$x=\frac{-2c}{b\pm\sqrt{b^2-4ac}}\tag{3}$$ $x^2$の係数を1にした式(monic equation)で$x$の係数をp,定数項をqとしたときは特に"pq-formula"といいます.


$$x^2+px+q=0$$ $$x=\frac{-p\pm\sqrt{p^2-4q}}{2}\tag{4}$$cubic equation(3次方程式)にもquartic equation(4次方程式)にも解の公式がありますが大変複雑です.3次方程式は"Cardano's formula(カルダノの公式)",4次方程式の方は"Ferrari's method(フェラーリの方法)"と呼ばれています.なお,5次以上の方程式には解の公式がないことの証明を,Ruffini(ルフィニ 1799)が発表し,Abel(アーベル 1823)が修正して完成させています(Abel–Ruffini theorem).

ところで,midnight formulaという言い方は主にドイツで使われていますが,ドイツでは円周率もLudolph numberという特別な呼び方があります.ドイツ出身で後にオランダへ移住したLudolph van Ceulen(1540–1610)が,アルキメデスと同じ正多角形の周長から求める方法で小数35桁まで計算したので,その功績を称えてこう呼ばれています.日本でも江戸時代に建部賢弘(たけべかたひろ 1664-1739)が小数41桁まで計算したので,円周率の別名として「建部数」と呼んでもいいのかもしれません.

<Reference>
「円周率を計算した男」(鳴海 風 著)

Dec 24, 2015

Oblique Triangle

三角形で,isosceles triangle(二等辺三角形)でもequilateral triangle(正三角形)でもない,3辺の長さが異なる三角形(a triangle that has three unequal sides)をscalene triangle(不等辺三角形)といいますが,この名称は日本の教科書ではほとんど使われていません.内田康夫著作の推理小説「浅見光彦シリーズ」に「不等辺三角形」というタイトルがあって,TVドラマになったときにこの用語を初めて知りました.

ところがさらに日本でほとんど使われていないのが,直角を持たない三角形,つまり直角三角形でない三角形oblique triangle(非直角三角形または斜三角形)で,acute triangle(鋭角三角形)とobtuse triangle(鈍角三角形)をまとめたものです.英語の方を検索すると多数でてきますが,漢字の方を検索しても中国語のサイトばかりが出てきて,日本語のサイトはほとんど登場しません.Obliqueはもともと「斜め」という意味で,oblique angleは「直角またはその倍数でない角(angles that are not right angles or a multiple of a right angle)」という意味です.

三角形の一部の辺や角を知って他の辺や角を求めることを「三角形を解く」といいますが,この場合,英語では”solving oblique triangles”ということが多いです.これはcosine rule(余弦定理)が,直角三角形ではcos90°=0なのでPythagorean theorem(三平方の定理)になってしまうため,その場合を始めから区別して述べているわけです.

【Oblique Triangle 問題】
(1) In the oblique triangle ABC, find side c if side a=5, b=10, and they include and angle of 14°.
△ABCで,辺a=5, b=10でその間の角が14°のとき,辺cの長さを求めよ.

(2) AB is a line 652 feet long on one bank of a stream, and C is a point on the opposite bank. A = 53°18', and B = 48°36'. Find the width of the stream from C to AB.

(解答はこちら

ところで日本の小中高で習うEuclidean geometry(ユークリッド幾何学)に対して,non-Euclidean geometry(非ユークリッド幾何学)という分野があります.こちらで定義される三角形は,内角の和が180°になりません.elliptic geometry(楕円幾何学)の特別な場合であるspherical geometry(球面幾何学)でのspherical triangle(球面三角形)は,内角の和が180°より大きく,540°より小さくなります.また,その反対のHyperbolic Geometry(双曲幾何学)でのhyperbolic triangle(双曲三角形)は,内角の和が180°より小さく,0°になる場合もあります.

spherical trigonometry(球面三角法)における三角形は,辺(弧)の長さが球の中心角と一致するのが特徴です.これは,半径を1として弧度法(半径と弧の長さが等しい扇形の中心角を1とする角度の表し方)を用いれば,扇形の弧の長さは中心角と一致するからです.つまり,扇形の弧の長さの公式 l=rθでr=1とすると,l=θなので,例えば右図の球の半径が1で中心角a=$\frac{π}{2}$(度数法では90°)ならば弧BCの長さは$\frac{π}{2}$になります.

spherical trigonometryでも平面上と同じように「三角形を解く」ことができ,正弦定理や余弦定理もあります.

spherical trigonometryのsine rule(正弦定理)
$$\frac{\sin a}{\sin A}=\frac{\sin b}{\sin B}=\frac{\sin c}{\sin C}$$
spherical trigonometryのcosine rule(余弦定理)
$$\cos a=\cos b \cos c + \sin b \sin c \cos A$$$$\cos b=\cos a \cos c + \sin a \sin c \cos B$$$$\cos c=\cos a \cos b + \sin a \sin b \cos C$$sinaやcosbなど,これまで角度だったところに辺の長さがあると少し違和感がありますが,半径1の円で弧度法を使えば,辺の長さと角の大きさが同じ値なのでこのような表現になります.これらの定理の証明は他サイトにありますので探してみてください.

因みに筋肉の名称にabdominal oblique muscle(腹斜筋)というのもがあります.これはよく言う「横腹の筋肉」のことです.scalene muscles(斜角筋)というのもあります.首筋にあるのですが,3つあってどれも長さが異なり,「不等辺」になっています.

<Reference>
The Law of Cosines
http://www.themathpage.com/atrig/law-of-cosines.htm
Oblique Triangles
http://www.clarku.edu/~djoyce/trig/oblique.html
このウェブページの問553は答えが間違っています.チェックしてみて下さい.
Oblique Spherical Triangle
http://www.mathalino.com/reviewer/spherical-trigonometry/oblique-spherical-triangle


Dec 21, 2015

Rhomboid

「2組の向かい合う辺が平行」という定義を持つ平行四辺形は,英語で parallelogram といいますが,これは以下の3つを含んでいます.
   ・長方形(rectangle/oblong)=すべての角が等しい平行四辺形
   ・菱形(rhombus)=すべての辺が等しい平行四辺形
   ・正方形(square)=すべての角と辺が等しい平行四辺形

これらの特別な平行四辺形と区別して,「内角が直角でなく,隣り合う辺の長さが異なる平行四辺形(a parallelogram in which angles are oblique and adjacent sides are of unequal length)」を rhomboid(偏菱形または長斜方形または長菱形)といいます.名前は parallelogram よりも rhombus(菱形)に似ていますが,要するにこれは普通の平行四辺形ということです.この名称は日本ではほとんど使われていませんが,ギリシャ語の ρoμβoειδη'ς("rhomboeidis"と発音)から来ていて,ユークリッドの「原論」では「対辺と対角は等しいが,等辺でも直角でもない四角形」として,次のように定義されています.

Euclid’s Elements Book I, Definition 22
“Of quadrilateral figures, a square is that which is both equilateral and right-angled; an oblong that which is right-angled but not equilateral; a rhombus that which is equilateral but not right-angled; and a rhomboid that which has its opposite sides and angles equal to one another but is neither equilateral nor right-angled. And let quadrilaterals other than these be called trapezia.”

平行四辺形の定理(性質または条件)はいくつかあります.まず日本の中2の教科書に掲載されているのが,以下の4つです.
    ・2組の対辺がそれぞれ等しい。
    ・2組の対角がそれぞれ等しい。
    ・対角線がそれぞれの中点で交わる。
    ・1組の対辺が平行でその長さが等しい。
この他にも,次のような定理(性質または条件)がありますが,日本の教科書ではあまり取り上げられていません.
    ・隣り合う角の和が180° “consecutive angles are supplementary”
    ・1本の対角線で2つの合同な三角形ができる ”diagonals form two congruent triangles”

平行四辺形の辺と対角線の長さについての定理 parallelogram law (of primary geometry)は,三角形の中線定理の平行四辺形版といえるもので,上図で次式が成り立つというものです.
\[2(AB^2+BC^2)=AC^2+BD^2\] もうひとつの parallelogram law (of vectors)は,「2つのベクトルの和は,それらの作る平行四辺形の対角線が表すベクトルになる」というもので,日本の高校教科書ではベクトルの和の定義になっていて,少し意味が異なります.

ところで,ドイツのハンブルクに rhomboid の形をした建築物 ” The Dockland office building” があります.6階建てで,各階のフロアの長さ86m,奥行き21m,内角は24°と156°になっていて,斜辺に,周囲を展望できる屋上までの階段があります.写真のガラス張りの部分の rhomboid の底辺の長さを86mとすれば斜辺は45mでした.よって,ガラス張りの部分の高さは45・sin24°≒18.3(m)ということになります.

人間の体にこの名前を冠する筋肉があります.それが小菱形筋 rhomboid minor muscle と大菱形筋 rhomboid major muscle です.平行四辺形の形をしていて肩甲骨を動かす働きがあるそうです.”rhomboid” で検索すると,この話題が多く登場します.カタカナの「ロンボイド」で検索すると,ロン・ボイドさんがつくった靴が多数登場しました(笑).

[Rhomboid 問題](やや難)

In a rhomboid with an area of 48, the major diagonal is 4 shorter than the double of the minor diagonal. Calculate the exact value of the perimeter knowing that the shorter sides are of 5.
面積が48の平行四辺形があり,長い方の対角線の長さが,短い方の対角線の長さの2倍より4短い.短い方の辺の長さが5であるとき,この平行四辺形の周長を求めよ.

(正解はこちらです)

<Reference>
“rhomboid”
http://planetmath.org/rhomboid
“Euclid’s Elements” Book I, Definition 22 http://aleph0.clarku.edu/~djoyce/elements/bookI/defI22.html
“Calculate perimeter of rhomboid”
http://math.stackexchange.com/questions/1121386/calculate-perimeter-of-rhomboid

Dec 16, 2015

Cevian

Ceva 1
三角形の頂点から対辺に降ろした線分はCevian(チェバ線)といいます.中線(triangle medians),垂線(altitude),角の二等分線(angle bisectors)なども含まれますが,垂直二等分線(perpendicular bisector)は頂点を通らないので含まれません.この名前はイタリアの数学者ジョバンニ・チェバ(Giovanni Ceva 1647-1734)に由来しています.似たようなネイミングでよく知られたものに,Jacobian(ヤコブ行列式)やLaplacian(ラプラス微分作用素)などがあります.

チェバが発見したチェバの定理(Ceva's theorem 1678年)は,図の三角形ABCの3つのCevianが1点Gで交わっているとき,各辺の分点で分けられた線分の比が次の等式を満たすという定理です.
$$\frac{AF}{FB}\cdot\frac{BD}{DC}\cdot\frac{CE}{EA}=1\tag{1}$$ この中で交わっている点GをCevian Point,分点を結んでできる三角形DEFをCevian Triangleといいます.重心,垂心,内心などもCevian Pointのひとつです.

このような「三角形の(ある意味での)中心」は,この定理以降に多数発見され,Evansville大学のClark Kimberlingが作成したサイト”Encyclopedia of Triangle Centers”に,2015年現在8700以上の「三角形の中心」が登録されています.その始めの5つは以下の通りです.
X(1)=incenter 内心(内接円の中心)
X(2)=centroid 重心
X(3)=circumcenter 外心(外接円の中心)
X(4)=orthocenter 垂心
X(5)=nine-point center 九点心(九点円の中心)

数学オリンピックで,ある三角形のCevianの長さの平均を求める問題が出されたことがあるそうですが,Cevianの長さといえば有名なものに中線定理(英語ではApollonius' theorem)があります.これは上図でDがBCの中点であるとき,
\[AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2)\tag{2}\] という等式が成り立つという定理です.これはBCとAHを対角線とする平行四辺形ABHCを考えたときも成り立つのでparallelogram law(平行四辺形の法則)ともいいます.

中線定理は,中線以外のCevianの長さすべてに当てはまるStewart's theorem(シュツワートの定理)の特別な場合になっています.Stewart's theoremは,上図のDがBCをm:nに内分するとき,次の式が成り立つという定理です.
\[nAB^2+mAC^2=(m+n)AD^2+nBD^2+mCD^2\tag{3}\] 確かにm=n=1のとき,式(2)と一致しています.

また逆に,中線定理でAB=ACのとき,式(2)は
\[AB^2=AD^2+BD^2\] となり,ピタゴラスの定理になります.

Cevianの長さを求めてみましょう.シュツワートの定理(3)で,AB=c, AC=b, BC=a, AD=dとすると,\[nc^2+mb^2=(m+n)d^2+\frac{n(ma)^2}{(m+n)^2}+\frac{m(na)^2}{(m+n)^2}\] となり,これを整理するとCevianの長さの平方は次式になります. \[d^2=\frac{mb^2+nc^2}{m+n}-\frac{mna^2}{(m+n)^2}\tag{4}\] よって,Cevianの長さはこの平方根になります.

Menelaus 1
Cevianは登場しませんが,チェバの定理に似たものでメネラウスの定理(Menelaus' theorem 70-140年)があります.図の三角形ABCのtransversal(横断線)が辺AB,ACおよびBCの延長線とF,E,Dで交わっているとき,各辺の内外分点で分けられた線分の比が次の等式を満たすという定理です.\[\frac{AF}{FB}\cdot\frac{BD}{DC}\cdot\frac{CE}{EA}=1\]
これは式(1)と一致しますが,線分に向きをつけて考えると外分点が1つなので次式になります. \[\frac{AF}{FB}\cdot\frac{BD}{DC}\cdot\frac{CE}{EA}=-1\tag{5}\]
Menelaus 2
また,3辺の延長上を横断する場合は外分点が3つになりますが,やはり同じ式(5)が成り立ちます.

これはチェバの定理も同様で,辺ABおよびCA,CBの延長線とF,E,Dで交わっているとき,外分点が2つになるので,やはり同じ式(1)を満たします.従って,線分の向きまで考えると,チェバの定理とメネラウスの定理の満たす等式は右辺の±1だけ異なるということになります.

Ceva 2
因みに、この2つの定理の発見された年は約1500年の隔たりがあります。

【Cevian 問題】
Find the length of the cevian AD.
最上図で,AB=7, AC=8, BD=6, CD=5のとき,ADの長さを求めよ.
(解答はこちら

<Reference>
Encyclopedia of Triangle Centers

Dec 13, 2015

Metallic Means

連続する正の整数のmetallic means(貴金属平均)とは,第n項が
$$a(n)=\frac{n+\sqrt{n^2+4}}{2}$$
となる数列をいい,貴金属数(metallic numbers/constants)または貴金属比(metallic ratios)とも呼ばれます.これはその数とその逆数との差が正の整数nになるもの,すなわち方程式
$$x-\frac{1}{x}=n$$
の正の解で,両辺にxを掛けて移項すれば,2次方程式
$x^2-nx-1=0$
の正の解になっています.始めの3項は,
\begin{align}
a(1)&=\frac{1+\sqrt{5}}{2}=1.6180... \\
a(2)&=\frac{2+\sqrt{8}}{2}=1+\sqrt{2}=2.4142... \\
a(3)&=\frac{3+\sqrt{13}}{2}=3.3027... \\
\end{align}となり,a(1)は1と2の間の,a(2)は2と3の間の,a(3)は3と4の間の貴金属平均といいます.このa(1)は黄金比(golden ratio),a(2)は白銀比(silver ratio),a(3)は青銅比(bronze ratio)と呼ばれていて,貴金属平均は黄金比を一般化した数列ともいえます.(注)英語でratioは「比」も「比の値」も意味しますので,ここでは便宜上どちらも「比」と呼んでいます.

黄金比は、正五角形の対角線と辺の比であり,フィボナッチ数(Fibonacci number)の前後の項の比がこの値に近づいていくことが知られています.ここで、フィボナッチ数とは漸化式
$a(n+2)=a(n+1)+a(n)$
を満たす数列(直前の2項を加えると次の項になる数列)
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, …
のことで、1-Fibonacci numbersともいいます.

白銀比は正八角形の対角線と辺の比であり,ペル数(Pell number)という数列の前後の項の比がこの値に近づいていきます.ここで、ペル数とは漸化式
$a(n+2)=2a(n+1)+a(n)$
を満たす数列(直前の項の2倍とその前の項を加えると次の項になる数列)
0, 1, 2, 5, 12, 29, 70, 169, 408, 985, 2378, …
のことで,2-Fibonacci numbersともいいます.

同様に青銅比も,ある数列の前後の項の比がこの値に近づいていきます.この数列は,Neil Sloaneという数学者がつくったオンライン整数列大辞典OEIS(On-Line Encyclopedia of Integer Sequences)というサイト(2015年8月現在で26万もの数列が登録されている)でのID番号がA006190である数列で,次の漸化式
$a(n+2)=3a(n+1)+a(n)$
を満たす数列(直前の項の3倍とその前の項を加えると次の項になる数列)
0, 1, 3, 10, 33, 109, 360, 1189, 3927, 12970, …
であり,例えばa(9)/a(8)は12970/3927=3.3027…と前後の項の比が青銅比に近づき,3-Fibonacci numbersともいいます.その後も漸化式
$a(n+2)=ka(n+1)+a(n)$
を満たす数列をk-Fibonacci numbersといいます.

また他にMetallic Means Family (MMF)というのがあって,2次方程式
$x^2-x-m=0$
の解になっている数があります.m=1の場合は黄金比ですが,m=2のときの解は2となり,これをcopper mean,m=3のときの解は
$$\frac{1+\sqrt{13}}{2}=2.8027...$$
となり,これをnickel meanといいます.このcopperは純銅で,bronzeは青銅です.青銅は純銅とスズとの合金ですが,オリンピックの銅メダルには青銅が使用されています.

因みに貴金属平均ではありませんが、
$\sqrt{3}=1.7320...$
は白金比またはプラチナ比(platinum ratio)と呼ばれています.また,類似するものにplastic number(プラスチック数)というのもあって,これは3次方程式
$x^3-x-1=0$
の実数解で,1.3247…になります.

<Reference>
Proceedings of the First International Conference on Smarandache Type Notions in Number Theory (American Research Press 1997)
On-Line Encyclopedia of Integer Sequences

Dec 12, 2015

Hypotenuse Leg Theorem

日本の中学数学2の教科書には,三角形の合同条件(triangle congruence theorems/postulates)は次の3つが書かれています.
  ①3組の辺がそれぞれ等しい(SSS=Side Side Side)
  ②2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい(SAS=Side Angle Side)
  ③1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しい(ASA=Angle Side Angle)
加えて直角三角形の合同条件として以下の2つが述べられています.
  ④斜辺と1つの鋭角がそれぞれ等しい(RHA=Right Triangle Hypotenuse Angle)
  ⑤斜辺と他の1辺がそれぞれ等しい(RHS=Right Triangle Hypotenuse Side)

しかし,③を言いかえると「2組の角とその間の辺がそれぞれ等しい(ASA)」となり,④は「2組の角とその間にない対応する辺がそれぞれ等しい(AAS/SAA)」とすれば直角三角形でなくても言えるので,この③と④をまとめて「2組の角と1組の対応する辺がそれぞれ等しい(AAcorrS=A A corresponding S)」とした方がより広い範囲で三角形の合同条件を示したことになります.

⑤については三平方の定理=ピタゴラスの定理を知っていれば容易に「3組の辺がそれぞれ等しい」ということがわかるのですが,この定理を使うには直角三角形という条件が必要です.日本の教科書ではまだこの定理を学習していない中2で登場しますから,例えば2つの直角三角形を背中合わせにして2等辺三角形をつくり,底角が等しいことを使って証明するとか,または2つの直角三角形の一方の底辺を延長させ,やはり2等辺三角形をつくって証明する方法があります.これによって証明された「斜辺と他の1辺がそれぞれ等しい直角三角形は合同である」という結論は,”Hypotenuse Leg Theorem (HL)”と呼ばれています.

従って,直角三角形の場合も含めて一般の三角形の合同条件は,
  ①3組の辺がそれぞれ等しい (SSS)
  ②2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい (SAS)
  ③④2組の角と1組の対応する辺がそれぞれ等しい(AAcorrS)
  ⑤直角三角形の斜辺と他の1辺がそれぞれ等しい Hypotenuse Leg Theorem (HL or RHS)
の4つですべての場合が言えることになります.

因みに,日本の中学校の教科書では,三角形が一通りに決まる条件を図で考えさせて三角形の合同条件が導入されています.この理由として次の2つが考えられます.
1) ユークリッドの「原論」ではすべてが定理として証明されているが,その証明が非常に難しい.
2) 「現代数学の父」と呼ばれたドイツの数学者ヒルベルト(David Hilbert 1862-1943)が,ユークリッド幾何学を現代的に扱うために1899年に著した「幾何学基礎論(The Foundations of Geometry)」の中で,「2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」を三角形の合同の公理(証明しなくても成り立つとして良い命題)としている.