Jul 18, 2022

Sextic

Sex は「性」や「性別」などの意味があるので,sexual, sexy は「性的な」という意味になります.それなら sextic も同様の意味ではないかと思ってしまいますが,これは全く異なる意味の数学用語で, 形容詞なら「6次の」,名詞なら「6次式」という意味になります.6 なら six だろうと思いますが,数学用語は Latin(ラテン語)や Greek(ギリシャ語)が語源になっているものが多く,これも Latin で 6 を表す sex を語源としています.なので,例えば sextic function なら6次関数という意味になります.

両言語の数詞をまとめてみました.


数学用語以外にも,monotone, duet, triathlon など,これらが頭につくものがたくさんありますね.

[Quiz] 1960年代に「ドリフターズ」から分裂して活躍した4人組コミックバンド(のちに5人になった)のグループ名は「○○○○カルテット」.○○○○は何?

[Answer] (次の行をドラッグしてください)
Donkey Quartet(ドンキーカルテット)

紀元前,1年が10か月だった時代,今の August(8月)は Sextilis(6番目の月)と呼ばれていました.その後 January, February が加わって12か月になっても名称は変わりませんでしたが,後にローマ皇帝 Augustus が自分の名を使って August に変えました.因みに,7月も Quintilis(5番目の月)だったのを,あの Julius Caesar が 同じく自分の名をとって July に変えました.しかし,September から December は当初の意味から2か月ずれたまま残っています.

意外なところでは,16進法を hexadecimal または sexadecimal と言うのに対し,60進法は sexagecimal と言いますが,hexagecimal とは言わないようです.

次数の表現です.


1変数の sextic equation(6次方程式)は一般に次式で表されます.$$a_6x^6+a_5 x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x+a_0=0$$Abel–Ruffini theorem(アーベル–ルフィニの定理)により,5次以上の方程式は代数的に(四則演算と累乗根で)解けないのですが,Galois theory(ガロア理論)から,ある条件を満たすときは代数的に解けることが分かっています.例えば次のような特別な形なら$x^3$を変数とする2次方程式として代数的に解くことができます.$$a_6x^6+a_3x^3+a_0=0$$必ず解ける代数的でない(超越的な)解法はあるのですが,あまりにも複雑なので,実用的には数値計算で解を求めるのが一般的です.

Cayley's sextic

次の2変数 sextic equation(6次方程式)を Cayley's sextic といいます.これは他の人が最初に発見したのですが,Cayley が詳しく研究したのでこの名前がついています.$$64 (x^2+y^2)^3-48 ax (x^2+y^2)^2-3 a^2(x^2+y^2)(5 x^2+9 y^2) -a^3 x^3=0$$
a=-1のとき                                     a=1のとき

これはよく知られた Cardioid(心臓形)上の任意の点における接線に原点から降ろした垂線の足の軌跡(pedal curve=垂足線)になっています.
内側の曲線がCardioid (Wolfram MathWorld)

[Reference]



Jul 5, 2022

Nature of Roots

この nature を「自然」と訳すと,nature of roots は「根っこの自然」となって,これは植物学的な話かなと思ってしまいます.数学ではどんな場面に登場しているのか見てみましょう.

Use the discriminant to determine the nature of the roots of quadratic equation. 

これなら「2次方程式の根(こん)の自然を決めるには判別式を使う」となりますが, nature には次の意味もあります.

Weblio英和対訳辞書 "nature"
自然、天然、自然界、自然力、自然現象、(人・動物の)本性、天性、性質、本質、特質

なので「2次方程式の根(こん)の性質を調べるには判別式を使う」ということになります.しかし discriminant(判別式)で判別するのは,2次方程式の解が「two distinct real roots(異なる2つの実数解),multiple roots(重解),imaginary roots(虚数解)」(複素数を未習の場合は「虚数解」ではなく「解なし」)のどれになるかということですから,「性質」というのも少し違う気がします.

続いて "nature of" の意味を調べてみると,

Weblio英和対訳辞書 "nature of"
[単数形で; 通例修飾語を伴って] 種類, [the nature] 〔ものの〕本質,特質,特徴 

というわけで,nature of roots は「根(解)の種類」と訳すのが正しいようです.したがって,上の文章は「2次方程式の根(解)の種類を決めるには判別式を使う」という意味になります.日本の高校数学Ⅱの教科書でも,「解の種類を判別する」という言い方が使われています.

ところでもともと判別式は,n次方程式が重解を持つ条件を与える式として,19世紀中ごろに英国の数学者 Sylvester が導入しました.$n$次方程式 $$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdot\cdot\cdot+a_1x+a_0=0 \quad (a_n \neq 0)$$ の重複を含めた解を $\alpha_1, \cdot\cdot\cdot, \alpha_n$ とすると,$$\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)=0$$になるとき,すなわちすべての異なる(はずの)解の差の積が0になるとき,どれか2つ以上の解が一致するので重解を持ちます.Sylvester はさらに虚数の平方は負になることから虚数解を判別するためにこの式を平方し,式の値を分数にしないようにするために$a_n^{2n-2}$を掛けて,判別式$D$を次の式で与えました.$$D=a_n^{2n-2}\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$$例えば$n=3$なら,$D=a_3^{2・3-2}(\alpha_1-\alpha_2)^2(\alpha_2-\alpha_3)^2(\alpha_1-\alpha_3)^2$となり,これが3次方程式の判別式になりますが,これだけでも計算はかなり複雑です.

では$n=2$にしてみましょう.$$D=a_2^{2・2-2}(\alpha_1-\alpha_2)^2$$ここで2次方程式を $ax^2+bx+c=0$,その重複を含めた解を$\alpha$,$\beta$とすると,解と係数の関係より,$\alpha+\beta=-\frac{b}{a},\quad\alpha\beta=\frac{c}{a}$なので,\begin{eqnarray} D &=& a^2(\alpha-\beta)^2 \\&=&  a^2(\alpha^2-2\alpha\beta+\beta^2) \\&=& a^2\left( (\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta \right)  \\ &=& a^2\left( \left(-\frac{b}{a}\right)^2-4\left( \frac{c}{a}\right)  \right)  \\&=& b^2-4ac \end{eqnarray}というわけで,お馴染みの2次方程式の判別式を導くことができました.

[Question] (The answer follows after reference)

Find the value of the discriminant, and state the nature of the roots for each equation. (Mathematics SL : Oxford University Press)

a) $x^2+5x-3=0$
b) $2x^2+4x+1=0$
c) $4x^2-x+5=0$
d) $x^2+8x+16=0$

[Reference]

Weblio英和対訳辞書

Discriminant
https://en.wikipedia.org/wiki/Discriminant

代数方程式の判別式
http://hooktail.sub.jp/algebra/Discriminant/

[Answer] (Drag below)

a)     37 ; two  different real roots
b)     8 ; two different real roots
c)     -79 ; no real roots
d)     0 ; two equal real roots