■発見者の名前がついていない例
Lagrange's mean value theorem(ラグランジュの平均値の定理)
平均値の定理はいくつかあります.その中で日本の高校数学Ⅲで登場する,「グラフ上の2点を結ぶ割線と等しい傾きを持つ接線がその間に存在する」という定理が「ラグランジュの平均値の定理」です.
Varignon's theorem(バリニョンの定理)
日本の中学数学2で出てくる「任意の四角形の各辺の中点を結んでできる四角形は平行四辺形になる」という定理です.
■用語として使われていない例
Scientific Notation(科学表記)
例えば$1.23×10^4$のような数の表し方(2021年度からの学習指導要領で中1で学ぶ内容から中3で学ぶ内容に移りました)をいいますが,日本の教科書では「(整数部分が1けたの数)×(10の累乗)の形」という言い方をしています.
Closure property も用語として使われていない例になります.日本語で「閉性」というので直訳で伝わりますが,日本の教科書では中学数学1と高校数学Ⅰで2回も登場するのに,この用語が使われていないというのが意外なのです.
例えば,整数×整数の結果は必ず整数になるので,このことを"the set of integers is closed under multiplication(整数の集合は掛け算について閉じている)"といいます.逆に,整数÷整数の結果は整数になるとは限らないので,"the set of integers is not closed under division(整数の集合は割り算について閉じていない)"といいます.
このような性質をclosure property(閉性)というのですが,日本の教科書にはこの用語は出てこず,「数の範囲と四則計算の可能性」といって,closedのことを「この範囲でいつでも計算できる」「その範囲で常に計算できる」というような言い方をしています.operation of arity two(2数の演算)の結果がまたその2数の属する集合の元になるという意味なので,この表現は少し違和感を感じますね.
このように2数(ある集合の元2つ)から1つの数(ある集合の元1つ)が得られる演算を,代数学ではbinary operation(二項演算)といい,一般には2つの集合A, Bの Cartesian product(デカルト積)A×B={(a, b)|a∈A,b∈B}からその演算結果の集合C{c|c∈C}へのmapping(写像)で定義されます.例えば$2\div 3=\frac{2}{3}$という計算は,(2, 3)を$\frac{2}{3}$に対応させており,この場合は,整数の集合と整数の集合のデカルト積$\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}$から有理数の集合$\mathbb{Q}$へのmappingになっています.
「ある集合が,ある演算について閉じている」という場合は,A=B=Cのときをいい,例えば上の整数の集合$\mathbb{Z} $では,足し算,引き算,掛け算の結果がまた整数になるので,これら3つの演算については閉じているといえます.文献によっては,このように閉じている場合だけをbinary operationという場合があります.
代数学は,以上の事柄を基本として,単位元,逆元の存在,ひとつの演算についての交換法則,結合法則,2つの演算についての分配法則を用いて,群,環,体という概念を定義し,3次,4次,5次方程式解法の理論へと発展していきます.
[Closure Property 問題]
Is the set {-1, 1} closed under addition, subtraction, multiplication and/or division?
解答はこちら
[Reference]
Binary operation
https://en.wikipedia.org/wiki/Binary_operation
因みに,このサイトを参考にするのはいいのですが,日本語Wikiの「二項演算」というページは「この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか不十分です」となっており,内容も英語版とかなり違っていてあまり参考になりませんでした(この投稿公開日現在).