「約数」という日本語は,他にも「因数」や「因子」などの言い方がありますが,英語でも divisor, measure, factor, submultiple,
aliquot などいろいろな言い方があります.最初の3つは,GCD (Greatest Common Divisor), GCM (Greatest Common Measure), HCF (Highest Common Factor) と表すと,いずれも「最大公約数」を意味します.あまり使われませんが,greatest common submultiple という場合もあります.しかし,aliquot だけは少し違った意味があります.
数学英和・和英辞典(共立出版)には,
aliquot a. 割り切れる,整除できる. n. 割り切れる数,約数. ~ part 約数.
と書かれているので,これだけでは aliquot も同じ「約数」という意味ではないかと思いますが,実は多くの場合,aliquot または aliquot part というのは proper divisor(真約数),すなわちそれ自身を含まない約数を意味します.例えば12の divisors は 1, 2, 3, 4, 6, 12ですが,12の aliquot は 1, 2, 3, 4, 6になります.
関連するものに aliquot sum(アリコット和), aliquot sequence(アリコット数列)があります.aliquotだけ和訳がないのは不思議ですが,元々Latin語の ali (otherの意) とquot (how manyの意)から来ているそうです.
aliquot sequence(アリコット数列)
正の整数$k$の全約数の総和を$\sigma(k)$と表します.aliquot sum すなわち proper divisor の総和は,全約数の総和からそれ自身を引くので,$\sigma(k)-k$となります.$k$に対して,aliquot sum を返す関数$s(k)=\sigma(k)-k$を "restricted divisor function"といいます.正式な日本語訳はありませんが,強いていうなら意訳して「真約数関数」でしょうか.
aliquot sequence は,正の整数$k$から始まり,次の項がその前の項の restricted divisor function の値,すなわち aliquot sum になるという,次の漸化式を満たす数列です.$$s_0=k,\quad \quad s_{n+1}=s(s_n)=\sigma(s_n)-s_n$$例1. $k=4$のとき,\begin{eqnarray}s_0&=&4\\s_1&=&s(s_0)=\sigma(s_0)-s_0=\sigma(4)-4=(1+2+4)-4=1+2=3\\ s_2&=&s(s_1)=\sigma(s_1)-s_1=\sigma(3)-3=(1+3)-3=1\\ s_3&=&s(s_2)=\sigma(s_2)-s_2=\sigma(3)-3=1-1=0\end{eqnarray}
例2. $k=6$のとき,\begin{eqnarray}s_0&=&6\\s_1&=&(1+2+3+6)-6=1+2+3=6\\ s_2&=&(1+2+3+6)-6=1+2+3=6\end{eqnarray}
例3. $k=220$のとき,
\begin{eqnarray}s_0&=&220\\s_1&=&1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284\\ s_2&=&1+2+4+71+142=220\end{eqnarray}
例1は最後が「素数→1→0」となって終ります.例2は aliquot sum がそれ自身に一致する complete number(完全数)なので,同じ数が繰り返されます.例3はお互いが相手の aliquot sum になる a pair of amicable numbers(友愛数)なので,2数が交互に現れます.他にも3つ以上の数を繰り返す sociable numbers(社交数)があります.以上で aliquot sequence のパターンがすべて尽くされているとする Catalan-Dickson conjecture(カタラン-ディクソン予想)は,2022年4月現在,未解決問題となっています.
[Reference]
Aliquot sequences
https://www.unirioja.es/cu/jvarona/aliquot.html
aliquot part
https://www.daviddarling.info/encyclopedia/A/aliquot_part.html