図のような大きなsemicircle(半円)と,その直径上に中心を持つ2つの半円で囲まれた部分を
arbelos(アルベロス=αρβηλος)といいます.古代ギリシアの「靴屋のナイフ(arbelos)」に似ているのでこのように呼ばれています.
Arbelosの面積は,中の2つの半円の半径をa, bとすると,$$\frac{\pi(a+b)^2}{2}-\frac{\pi a^2}{2}-\frac{\pi b^2}{2}=\pi ab$$となりますが,これは,中の2つの半円の共通接線と大きい半円との交点を結ぶ線分CDを直径とする円の面積に等しくなっています.(Archimedes' Book of Lemmas Proposition 4 アルキメデスの補助定理集命題4)
Arbelosはギリシャ時代にBook of Lemmasに登場してから現在までいろいろな研究がされ,江戸時代の和算でも多く登場しています.中の2つの半円の半径の比がa:b=1:1のときのArbelosは,
漫画「和算に恋した少女」第2巻にも登場しました.
似たような形で,図のような大きな半円と,その直径上に中心を持つ3つの半円(両端の半円は同半径)で囲まれた部分を
salinon(サリノン=σαλινον)といい,ギリシャ語で「塩入れ(salt-celler)」を意味します.
Salinonの面積は,中の両端の半円の半径をa, 中央の半円の半径をbとすると,$$\frac{\pi(2a+b)^2}{2}-\pi a^2+\frac{\pi b^2}{2}=\pi(a+b)^2$$となりますが,これは図の最上点と最下点を結んだ線分を直径とする円の面積に等しくなります.(Archimedes' Book of Lemmas Proposition 14)
Arbelosの形をした大きな彫刻がNederland(オランダ)にあります.Kaatsheuvel(カーツスフーフェル)という村の中央を走る高速道路Midden-Brabantweg(ミッデン=ブラバント通り)沿いにあり,高さは24mもあります.Googleのstreet viewで探したところ,51°39'37.4"N 5°03'26.1"Eという位置にありました.2016年6月の撮影でしたが,正面から全体を見ると,目の前の街灯が邪魔をしていて少し残念でした.探してみてください.
(左:街灯設置前,右:街灯設置後)
<Reference>
アルベロス 3つの半円がつくる幾何宇宙
岩波科学ライブラリー 2010年 奥村博/渡邉雅之
Book of Lemmas