May 7, 2016

SOHCAHTOA

三角比の覚え方です.直角三角形のある角$\theta$のsine(正弦), cosine(余弦), tangent(正接)の値は,hypotenuse(斜辺), opposite(対辺), adjacent(隣辺)を用いて,
$$\sin\theta=\frac{\mathrm{opposite}}{\mathrm{hypotenuse}}$$$$\cos\theta=\frac{\mathrm{adjacent}}{\mathrm{hypotenuse}}$$$$\tan\theta=\frac{\mathrm{opposite}}{\mathrm{adjacent}}$$
と定義されます.英語では分数は分子から読みますから,例えばsinはopposite over hypotenuse(またはopposite devided by hypotenuse)なのでSOHという順になり,これらの頭文字をとって,SOHCAHTOAと覚えましょうというわけです.日本ではよく図のような覚え方が参考書などで紹介されています.$$\sin\theta=\frac{y}{r}, \quad \cos\theta=\frac{x}{r}, \quad \tan\theta=\frac{y}{x}$$海外では高校程度の教科書に,他の三角関数として,sine, cosine, tangentのreciprocal(逆数)であるcosecant(余割), secant(正割), cotangent(余接),まとめてreciprocal trigonometric function(割三角関数)がよく登場します.SOHCAHTOAと同じように,CHOSHACAOという覚え方があります.
$$\csc\theta=\frac{\mathrm{hypotenuse}}{\mathrm{opposite}}, \quad \sec\theta=\frac{\mathrm{hypotenuse}}{\mathrm{adjacent}}, \quad \cot\theta=\frac{\mathrm{adjacent}}{\mathrm{opposite}}$$このうちsecantとtangentは別の意味で,つまりsecantは割線,tangentは接線という意味でよく使われます.割線とは2点を通る直線という意味ですが,日本の高校教科書ではこの用語は使われていません.$$\csc\theta=\frac{r}{y}, \quad \sec\theta=\frac{r}{x}, \quad \cot\theta=\frac{x}{y}$$またinverse function(逆関数)であるarcsineまたは$\sin^{-1}$, arccosineまたは$\cos^{-1}$, arctangentまたは$\tan^{-1}$も,世界中でインターナショナルスクールを中心に広く普及している教育課程「国際バカロレア」の高校数学Higher Level(主に理系)では登場します.周期関数の逆関数は多価関数になるので,定義域を制限して一価関数にしたものを特に主値と呼び,最初を大文字で表します.例えば,sin30°=1/2なので,次式が成り立ちます.$$\mathrm{Arcsin}\left(\frac{1}{2}\right)=\mathrm{Sin}^{-1}\left(\frac{1}{2}\right)=30^{\circ}$$

May 5, 2016

FOIL Method

日本の中学数学3で学習するbinomial(2項式)同士の積を展開するには次のように計算します.$$(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd$$この計算は,まずFirst terms同士を掛け(ac), 次にOuter(ad), Inner(bc), Last(bd)と計算するので,これらの頭文字をとってFOIL methodといいます.このような覚えやすい方法をmnemonicといい,このように頭文字をとって新たな単語のように読む用語はacronym(頭字語)といいます.右の計算の続きはこうなります.
\begin{align}
(2x+3)(4x-5)&=2x\cdot4x+2x\cdot(-5)+3\cdot4x+3\cdot(-5)\\
&=8x^2-10x+12x-15\\
&=8x^2+2x-15\\
\end{align}
この方法は他にも面白い言い方があって,crab claw method ともいいます.直訳すると「カニの爪」ですが,図のように掛けるもの同士を結ぶとカニの爪に見えるというところからこう呼ばれています.

日本ではこの計算方法に特別な名前はありません.

この応用として,binomial theorem(二項定理),trinomial theorem(三項定理),multinomial theorem(多項定理)があります.

二項定理
\begin{align}
(a+b)^2&=a^2+2ab+b^2\\
(a+b)^3&=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3\\
(a+b)^n&=a^n+\binom{n}{1}a^{n-1}b+\cdot\cdot\cdot+\binom{n}{n-1}ab^{n-1}+b^n\\
&=\sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}a^{n-k}b^k\\
\end{align}

ここで各項のcoefficient(係数)は,$$\binom{n}{k}=\frac{n!}{k!(n-k)!}$$で得られ,これらを並べるとPascal's triangle(パスカルの三角形)ができます.

三項定理 (日本の高校教科書ではこれを多項定理と呼んでいます)
\begin{align}
(a+b+c)^2&=a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca\\
(a+b+c)^3&=a^3+b^3+c^3+3a^2b+3a^2c+3b^2a+3b^2c+3c^2a+3c^2b+6abc\\
(a+b+c)^n&=\sum_{\substack{i+j+k=n}}\binom{n}{i,j,k}a^ib^jc^k\\
\end{align}ここで各項の係数は,$$\binom{n}{i,j,k}=\frac{n!}{i!j!k!}=(i,j,k)!$$で得られ,これらを並べるとPascal's tetrahedron(パスカルの正四面体)またはPascal's pyramid(パスカルのピラミッド)ができます.

多項定理
\begin{align}
(a_1+a_2+\cdot\cdot\cdot+a_m)^n&=\sum_{k_1+k_2+\cdot\cdot\cdot+k_m=n}\binom{n}{k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot,k_m}\prod_{1\leq t\leq m}a_t^{k_t}\\
\end{align}ここで各項の係数は,$$\binom{n}{k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot,k_m}=\frac{n!}{k_1!\cdot k_2!\cdot\cdot\cdot k_m!}=(k_1,k_2,\cdot\cdot\cdot, k_m)!$$で得られ,これらを並べるとPascal's simplex(パスカルの単体)ができます.このsimplex単体)とは,0次元の点,1次元の線分,2次元の三角形,3次元の四面体をn次元に一般化したものです.

因みに,このfoilという単語はもともとあって,金属の薄片,箔を意味します.あまりご縁はありませんが,ネイルアートでは爪にnail foilという薄片を貼りつけて装飾します.台所用品のアルミホイル(アルミ箔)は,実はaluminium foilなので,アルミフォイルと呼ぶべきところです.似たような言葉でアルミホイールといえば車に装備するaluminium wheelになります.

May 3, 2016

Tabular Method

表を使う方法という意味のtabular methodは,表解法,表手法,テーブル法などと和訳されていて,高校数学Ⅲのintegration by parts(部分積分)$$\int{uv'}dx=uv-\int{u'v}dx$$のところで,繰り返しの必要な計算を速くするのに役立ちます.この方法は映画"Stand And Deliver(落ちこぼれの天使たち)"(1987年)の中で紹介されたのでStand And Deliver method,または3×3の表に○×を並べていくゲーム"Tic Tac Toe(三目並べ)"に因んでTic-Tac-Toe method(因数分解にもこう呼ばれる解法があります),あるいはrapid repeated integration(直訳すると迅速反復積分?)とも呼ばれることがあります.

具体例をひとつ見てみましょう.下の表より,$$\int{x^2\sin x}dx=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x+C$$

右側の表をじっくり見てみましょう.左の列は$x^2$を次々に微分したもの,中央の列は$\sin x$を次々に積分したもの,右の列は符号です.折れ線でつながるものを与式の右辺に書き出せば正解が得られます.

繰り返し部分積分を必要とする関数にはexponentials(指数関数),logs(対数関数),trig functions(三角関数),inverse trig functions(逆三角関数),powers(べき関数)別名algebraic functions(代数的関数)の5つがあります.参照した論文ではこの5つの覚え方を次のように紹介していました.
When doing integration by parts, We want to try first to differentiate Logs, Inverse trig functions, Powers, Trig functions and Exponentials. This can be remembered as LIPTE which is close to ”lipton” (the tea).
For coffee lovers, there is an equivalent one: Logs, Inverse trig functions, Algebraic functions, Trig functions and Exponentials which can be remembered as LIATE which is close to ”latte” (the coffee).
(Integration by parts - Harvard Mathematics Department)
5つの関数の頭文字をとって,紅茶好きはliptonに似たLIPTE,コーヒー好きはlatteに似たLIATEと覚えましょうというわけです.

他の分野でもtabular methodという名前のついた解法があり,応用数学ではlinear convolution(線形畳み込み),ブール代数ではminimisation(最小化)などに使われていますが,表を使うということが共通なのであって,実際の方法は全く異なります.

【Tabular Method 問題】
1 Integrate $\displaystyle\int{x^2\log x}dx$
2 Find the anti derivative of $\displaystyle\int{x^6e^x}dx$
3 Find the antiderivative of $\displaystyle\int{e^{-x}\sin x}dx$
(正解はこちら

<Reference>
Integration by parts - Harvard Mathematics Department
http://www.math.harvard.edu/~knill/teaching/math1a_2012/handouts/39-parts.pdf

May 1, 2016

R-alpha Method


日本の高校数学Ⅱに登場する三角関数の合成は,compound angle formula(加法定理)を使って,express asinx+bcosx in the form Rsin(x+α) or Rcos(x+α) すなわち,sinxとcosxのlinear combination(一次結合または線形結合)であるasinx+bcosxをRsin(x+α)またはRcos(x+α)の形に表すことをいい,
R-alpha methodまたはR formulaと呼ばれることがあります.式で表すとこうなります.$$a\sin{x}+b\cos{x}=R\sin\left(x+\alpha\right)$$ ただし,$$R=\sqrt{a^2+b^2},\quad\alpha=\arctan\frac{b}{a}$$簡単な例としてa=b=1のときはこうなります.$$\sin{x}+\cos{x}=\sqrt{2}\sin\left(x+\frac{\pi}{4}\right)$$この意味の英語への直訳は,Synthesis of trigonometric functionsとなりますが,あまり使われていません.synthesisは総合,統合または(化学反応の)合成という意味があり,物理では音の合成にこの用語を使います.この派生語でsynthesiser(またはsynthesizer)という音を合成する機械があります.

大学の理系なら,いろいろな関数を三角関数の線形結合で次のように近似するFourier series(フーリエ級数)を学習します.$$f(x)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^\infty(a_n\cos{nx}+b_n\sin{nx})$$この式の右辺でa0=0, an=bn=n=1のときがすぐ上の式の左辺に当たります.

合成という日本語を使う他の数学用語の例として,composite function(合成関数)があります.これは,ある関数で得られた値をまた別の関数に代入して値を得る場合に使います.例えば,$f(x)=2x$,$g(x)=x^2$のとき,$f\circ g(x)=f(g(x))=2x^2$となります.三角関数の合成関数なら,例えば$\sin(\arccos\frac{3}{5})=\displaystyle \frac{4}{5}$などがそうです.因みに物理ではcomposition of force(力の合成)でこの言葉を使います.

たまたま検索してみたら,Yahoo知恵袋に,「三角関数の合成は,英語で何と言いますか?」という質問と回答があったのですが,そのBest Answerがcompositions of trigonometric functionsとなっていました.これはどうもBest Answerとは言い難いですね.

【R-alpha Method 問題】
Solve the 4sinx+6cosx=3 in the range of 0°≤x<360° by dividing the answers to the nearest degree.
(正解はこちら