Feb 11, 2019

Net

Netと聞くと「網」,または「インターネット」という意味しか思いつかないので,こんな数学用語があるのかなと思います.「数学英和・和英辞典」(小松勇作編・共立出版)には次のように掲載されています.
net a. 正味の.n. 正価;網.
net present worth 正味原価.net price 正価.
しかし,これは数学用語とは言い難いですね.実はnetには他にもこの辞典には載っていない2つの意味があります.

初等幾何学
初等幾何学においては,立体の「展開図」という意味で使われています.特に,nets of cube(立方体の展開図)のパターンは11種類あることが知られています.上図のnetは,truncated icosahedron(切頂二十面体)のものです.文字通りicosahedron(正二十面体)の各頂点を切り落としてできる立体で,32面(正五角形12+正六角形20)あります.よくあるサッカーボールはこれを膨らませたものです.

位相幾何学
位相幾何学においては,点列を一般化した概念でnetという用語があります.これはMoore-Smith sequenceとも呼ばれています.
Definition
A directed set is a nonempty set $I$ with a relation such that
(1) $\alpha\preceq\alpha$ whenever $\alpha \in I$;
(2) if $\alpha\preceq\beta$ and $\beta\preceq\gamma$, then $\alpha\preceq\gamma$;
(3) for each pair $\alpha$, $\beta$ of elements of $I$ there is a $\gamma_{\alpha\beta}$, in $I$ such that $\alpha\preceq\gamma_{\alpha\beta}$ and $\beta\preceq\gamma_{\alpha\beta}$.
That is, a directed set is a nonempty preordered set that satisfies (3). A net or Moore-Smith sequence in a set $X$ is a function from a directed set $I$ into $X$. The set $I$ is the index set for the net.
(An Introduction to Banach Space Theory by Robert E. Megginson)
日本語でいえば,有向集合(任意の2元が上界をもつ前順序集合)$I$からある集合$X$への関数をnetと言います.簡単な例としては,高校数学に登場する普通の数列は,有向集合である正の整数から数全体の集合への関数といえるのでnetになります.

NetはMooreとSmithが1922年に紹介した概念ですが,netという用語は1950年のKelleyによる論文で初めて使われました.Kelleyは当初wayという用語を使おうとしたのですが,netにはsubnetという概念もあり,wayを使うとそれがsubwayとなって「地下鉄」と混同してしまうので,Norman Steenrodという人がwayの代わりにnetを使うよう提案したそうです.

[Reference]
An Introduction to Banach Space Theory
Robert E. Megginson (2012)

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