May 5, 2018

Directed Numbers

日本では,中学1年生の数学で初めて負の数(negative numbers)が登場します.教科書には「ーのついた数」とも書かれています.もちろん小学校まで使っていた0より大きい数も,あらためて正の数(positive numbers)と呼び,正の数と負の数をまとめて「正負の数」と呼んでいます.英書ではこれらをdirected numbers(向きのある数)またはsigned numbers(符号のついた数)という場合があります.つまり,directed numbersもsigned numbersも意訳すれば「正負の数」ということになります.Directed numbersを中国語では有向數といいますが,日本語で有向数という用語はあまり使われません.また,signed numbersを符号数と呼ばないのは,signature(符号数)という別の意味の数があるからです.

ところで,英書で負の数に( )をつけていないのを目にすることがあります.例えばよく
$-3+-4=-7$
negative 3 plus negative 4 equals negative 7
と書かれています.負の数に( )をつけるのが当たり前の日本では,少し違和感を感じますが,( )がないからといって間違いではありません.

さて,なぜa negative times a negative equals a positive(負の数×負の数=正の数)となるのでしょうか.私の好きなのは次のような説明です.東向きに時速4kmで歩いている人は,2時間後には8km東に居ます.西向きに時速4km(東向きに時速-4km)で歩いている人は,2時間前(-2時間後)には8km東に居ました.同じところに居るので,$$4\times 2=-4\times -2$$ということになります.

借金と借金を掛けて財産になるというのはおかしな話です.この歴史的な議論を,数学者遠山啓(1909-1979)が著書「数学入門」(1959)で詳しく紹介しています.彼はこの中で「がんらい金高と金高をかけても無意味なのである」と述べています.速度と時間の積は意味がありますが,借金と借金の積は意味がありません.私たちは意味があるから,必要だから計算するのであって,意味のない計算はしないのです.

[Reference]
「数学入門」 遠山啓著 (岩波新書)