Apr 19, 2021

Duck’s Egg

Duckはカモやアヒルのことです.ドナルドダックというキャラクターがありますが,その絵から判断すると,ダックはアヒルだとばかり思っていました.ただ,アヒルではなくてカモであることを強調したいときはwild duckといいます.また,よく騙される人のことをカモといいますが,これはeasy markというそうです.

Eggは卵ですから,duck's eggはアヒルの卵という意味になります.ニワトリより少し大きいそうですが,味はどうなんでしょうか? 一度食べてみたいものです.

さて,duck's eggの直訳はアヒルの卵となりますが,数学ではどんな意味があるのでしょう.これはその形から来ています.卵に似た数字は何でしょう? そう,0ですね.なので数字の0を表すのかと思ったら,zero point,すなわち全く得点できない0点のことなんです.ずばり,スポーツや試験の点数が0点のときにduck’s eggといいます.別にduckのではなくても単にeggでいいと思いますけどね.

[Quiz]
ドラえもん(1969年~)の野比のび太よりずっと前からテストで0点を取ることで有名だった漫画のキャラクターは誰でしょう?

[Answer](この下の行をドラッグしてください)
丸出ダメ夫(1964年 - 1967年 週刊少年マガジン)

Zeroが数字の0という意味なのは当然ですが,もうひとつ,zero of a function(関数の零点)という概念があります.関数$y=f(x)$があるとき,$f(x)=0$となる$x$をzeroといいます.例えば,$f(x)=(x-1)(x-2)$のzeroは,$x=1, x=2$になります.つまり,関数=0という方程式の解のことです.英語ではzeroですが,日本語では零点といいます.

証明できたら100万ドル授与されるミレニアム問題のひとつであるリーマン予想は,ゼータ関数の自明でないzero(零点)の実数部分はすべて$\frac{1}{2}$であるというもので,2021年4月現在,未解決です.

因みに,oval(卵形線)と聞けば卵の形に近い曲線を思い浮かべますが,定義としては「内側の任意の2点を結ぶ線分がその曲線の中にある閉じた曲線」というもので,円や楕円はもちろん,陸上競技のトラックや三角形・四角形などの凸多角形も含まれます. 

Ellipse(楕円)の定義は,2つの焦点$S$, $T$からの距離の和$PS+PT$が一定である点$P$の軌跡で,2点からその距離より長い糸をピーンと張って描くことができます.

実際の卵の形に近い曲線としては,Ellipseに定義が似ている以下の2つが知られています.

■Cartesian oval(デカルトの卵形線)
2つの焦点$S(0,0)$, $T(c,0)$からの距離を$PS$, $PT$とするとき,$PS+mPT$が一定の値$d$である点$P$の軌跡で,方程式は次式になります.$$\left \{(1-m^2) (x^2+y^2)+2 m^{2}c x+d^{2}-m^{2} c^2 \right \}^2=4 d^{2} (x^2+y^2)\tag{1}$$これは2つの図形が現れ,定数の値によって,円や楕円や双曲線になったりします.GEOGEBRAで描いてみたので,定数をいろいろ変えてみてください.

なお,m=1の時は式$(1)$より楕円$$\left \{2c x+d^{2}- c^2 \right \}^2=4 d^{2} (x^2+y^2)$$となり,長軸を$2a$,短軸を$2b$として高校の教科書風に整理すると次式になります.$$\frac{\left(x-\frac{c}{2}\right)^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}=1$$

Cartesian ovalは,アナログではEllipseと似た方法で描けますが,一方の糸だけ2重にするという方法をJames Clerk Maxwell (1831 - 1879)が見つけました.

<描き方>

            Ellipse                         Cartesian Oval

■Cassini oval(カッシーニの卵形線)
2つの焦点$S(-c,0)$, $T(c,0)$からの距離の積$PS \times PT$が一定の値$d^2$である点$P$の軌跡で,方程式は次式になります.$$ (x^{2}+y^{2})^{2}-2c^{2}(x^{2}-y^{2})+c^{4}=d^{4}\tag{2}$$

Cassini Oval (c=5, d=4.9 のとき)

[Duck’s Egg 問題]
Prove (1) and (2).
正解はこちら

Apr 17, 2021

Vanishing

この単語が邦題になっている映画が3つもあります.
●The Vanishing / Keepers(バニシング)2018年イギリス
無人島に灯台守としてやって来た3人の男の前に,金塊を大量に持った男とそれを追う男2人が現れ,金塊の争奪戦が起こります.
●The Vanishing(ザ・バニシング -消失-)1988年ドイツ
夫婦でオランダからフランスへ旅行に来たが,妻が突然いなくなり,夫が捜索するが見つからず,3年後に犯人から連絡が来ます.
●Live Like a Cop, Die Like a Man(バニシング)1976年イタリア
容疑者を次々に撃ち殺すので上司も手を焼いているという若い2人の刑事が,麻薬シンジケートの大ボスを追いかけます.

[Quiz]
新車を陸送する仕事の途中,スピード違反で警察に追いかけられても、ただひたすら車を走らせて逃げ続ける男を描いた1971年のアメリカ映画は何でしょう?

[Answer](この下の行をドラッグしてください)
Vanishing Point

いずれも誰か,または何かがvanish(消失)する映画です.

さて前置きが長くなりましたが,数学で「消え失せる」なんていう意味の用語はあるのでしょうか.実は,値が0になることを vanish といいます.例えば関数$f(x)=(x-1)^2$は,$x=1$で$f(x)$の値が$0$ ($f(1)=0$) になりますから,このことを
the function $f(x)=(x-1)^2$ vanishes at $x=1$
と表します.単純に「$x=1$のとき$f(x)=0$」でいいんじゃないの?と思いますが,これも「少し気取った言い回し」(『数学版これを英語で言えますか?』保江邦夫著:講談社ブルーバックス)のひとつらしいので,こんな言い方も知っておいた方がよさそうです.

また,$x$が実数の時,関数$f(x)=\frac{1}{x^2+1}$は,$x$が大きくなるにつれて$f(x)$の値が0に近づきますが,このことを次のように言います.
the function $f(x)=\frac{1}{x^2+1}$ vanishes at infinity

さらに,vanish identically という場合がありますが,これはある時の値が$0$になるのではなく、恒等的に$0$に等しいということを意味しています.例えば,
$\sin ^2 \theta +\cos ^2 \theta -1$ vanishes identically
ということになります.

逆にどこも$0$にならない場合は、nonvanishingといい,例えば次のように表すことができます.
the values of $x^2+1$ are nonvanishing for real $x$
もちろん$x^2+1$は$x$が虚数の時にvanishすることがありますから,real $x$(実数の$x$)でないといけませんね.

因みに,3次式の因数分解をするには,factor theorem(因数定理)で因数をひとつ見つけた後,次の名前のついた2つの方法のいずれかですることができます.
vanishing method$$\begin{align} x^3-19x-30 &= x^3+2x^2-2x^2-4x-15x-30\\ &= x^2(x+2)-2x(x+2)-15(x+2) \\&= (x+2)(x^2-2x-15)\\&= (x+2)(x^2+3x-5x-15)\\&= (x+2)\{x(x+3)-5(x+3)\}\\&= (x+2)(x+3)(x-5)\end{align}$$
division method$$\begin{align} x^3-19x-30 &=  (x+2)(x^2-2x-15)\\&= (x+2)(x+3)(x-5))\end{align}$$①は無理やり因数を作っていく感じがしますが,「因数」→「値が0になる」→「消失する」ということでこんな名前がついたのでしょう.②は日本の高校の教科書に載っているやり方で,はじめに見つけた因数で割り算をする方法です.


Apr 4, 2021

Pizza Theorem

食べ物の名前のついた定理がいくつかあります.

Pancake Theorem(パンケーキの定理)は,「2つのパンケーキ(形は円でなくてもよいし,重なっていても離れていてもよい)は1つの直線でそれぞれを2等分できる」という定理で,それを3次元に拡張したものをHam Sandwich Theorem(ハムサンドイッチの定理)といいます.

Chicken McNugget Theorem(チキン・マックナゲットの定理)は,「互いに素な$m$個入り,$n$個入りパックの組み合わせで買えない最大の個数は$mn-m-n$個である」という定理で,もともとチキン・マックナゲットが9個入り,20個入りで販売されていたのが発祥の定理です.

Pizza Theorem(ピザ の定理)1968年
ピザ(この形は円でなければいけません)を,円内の任意の点Pを通る$2n$本の直線で中心角が$\frac{\pi}{2n}$ (radian) になる扇形みたいな図形$4n$個に分割したとき, 分割された各部分を2人で同じ方向に交互に取っていくと,その和がそれぞれ同じ面積になる.ただし,$n≥2$.

[Quiz]
n=1のときの分割は何本の直線でいくつに分割し,できたおうぎ形みたいな図形の中心角は何度でしょう?

[Answer](この下の行をドラッグしてください)
2本の直線で4分割,中心角はπ/2(radian)=90°

n=2のとき4本で8分割,n=3のとき6本で12分割

上図でいうと,n=2のときは紫色と黄色の部分,n=3のときは緑色と橙色の部分の面積が等しいという定理です(1999年には「$n$人で交互に取っていっても,その和がそれぞれ同じ面積になる」ことが示されました).

n=1のとき,すなわち2本で4分割したときはなぜダメなのでしょう.

右図の円の半径をR,中心をOとします.点Pで直交する2本で4分割されたとして,中心Oを通る2本の直径とでできる9個の領域をa~iとすると,
  右上+左下=a+e+h+i+c=a+(i+g)+(i+f)+i+c
                      >a+g+f+i+c=$\frac{\pi R^2}{2}$
となり,右上+左下>半分>左上+右下になるからです.つまり,4分割では交互に取っても2人の取り分は同じ面積になりません.

n=2のとき,すなわち4本で8分割したときに定理が成り立つことを確認してみましょう.

右図で$PA=r(\theta)$,$PE=r(\theta+\frac{\pi}{4})$とすると,扇形みたいな形APEは,$\theta$を細かくすると,ほとんど扇形になるので,扇形の面積の公式$S=\frac{1}{2} r^2  \theta$より,$\varDelta S=\frac{1}{2} r(\theta)^2 \varDelta \theta$となりますから,この部分の面積$S_1$は$$S_1=\displaystyle \int_0^\frac{\pi}{4} \frac{1}{2}r(\theta)^2 d\theta$$となります.これから交互に4つ取ると,$$S_1+S_3+S_5+S_7=\displaystyle \int_0^\frac{\pi}{4} \frac{1}{2} \left \{ r(\theta)^2+r \left(\theta+\frac{\pi}{2}\right)^2+r(\theta+\pi)^2+r \left(\theta+\frac{3\pi}{2}\right)^2 \right \}d\theta$$となりますが,これは$$\displaystyle \int_0^\frac{\pi}{4} 2R^2d\theta\tag{1}$$となることが分かっていて(理由はこの後すぐ),するとこの続きは$$\displaystyle \int_0^\frac{\pi}{4} 2R^2d\theta=2R^2\displaystyle \int_0^\frac{\pi}{4} d\theta=2R^2 \left[ \theta \right] _0^\frac{\pi}{4}=2R^2\cdot\frac{\pi}{4}=\frac{\pi R^2}{2} $$となって,交互に取った1人分の面積はちょうど円の半分になることが分かります.

さて$(1)$の理由です.
$r(\theta)=PA=a$,$r(\theta+\frac{\pi}{2})=PB=b$,$r(\theta+\pi)=PC=c$,$r(\theta+\frac{3\pi}{2})=PD=d$とすると,$$R^2=OA^2=ON^2+NA^2=MP^2+NA^2=\left( \frac{b-d}{2}\right)^2+\left(\frac{a+c}{2}\right)^2$$$$R^2=OB^2=OM^2+MB^2=NP^2+MB^2=\left( \frac{a-c}{2}\right)^2+\left(\frac{b+d}{2}\right)^2$$辺々加えると,$$2R^2= \frac{1}{2}\left(a^2+b^2+c^2+d^2\right)$$となり,$(1)$が示されました.

因みに,Wolfram MathWorld には the second pizza theorem というのが紹介されていて,こう書かれてありました(笑).
This one gives the volume of a pizza of thickness a and radius z:
pi z z a.